「自分を生み育てた母親だからできるのよ」と言う人がいるけれど、そうなの? おむつを外したときの衝撃がとにかくあんまり強烈だった私は、何人ものヘルパーさんや看護師さんに聞いたわよ。
「ショックからどう立ち直るんですか? てか、見たらショックですよね?」と。
「う~ん、仕事ですからねぇ。でも、さんざん意地悪された姑のは一段と臭うかも」って、笑いながら言うのはヘルパーのOさんだ。
「えっ? 出たらうれしいじゃないですか。これでスッキリだねって」と言ったのは訪問看護師のTさん。Tさんは、退院してきたばかりの母の“摘便”をしてくれたとき、「こんなに出ましたよ」とうれしそうな顔で、指で掻き出しておむつにのせたブツを掲げて見せてくれた。私たち素人とは感覚が違うんだと思う。
感覚が違うと言えば、別の看護師さんは「大変な現場を片付けて手を洗ってすぐ、食堂で食事をします。カレー? 余裕です(笑い)」。
これをプロと言わずに何と言おう。本当に頭が下がる。
てか、私が彼女たちにこんなことを聞くときは必ず、シモの世話でメンタルがやられているときだ。母の場合、出るのは健康の必須条件だ。おかげで介護3か月目のいま、押し車を押して歩けるようになり、車の乗り降りも自在。元気に週2日、デイサービスに通っている。その分、私はポータブルトイレの中身をトイレに流すことと、時折の大惨事の片付けに追われている。
とにかく、人並み以上に出る。わかっている。だから、母がやらかしたときは「はいは~い。大丈夫、片付けるよ~」とめいっぱいの明るい声を出して、淡々と片付ける。
だけど、やっぱり鼻も目も悲鳴をあげているんだよね。それを理性で抑えつけている。ちょっとでもイヤな顔をしたら当人がどんなにツラかろうと思うから。現に、失敗すると空を見つめて悲しそうだし。
でも、こちらにはこちらの事情があって、シモの世話はうまくいっても、別の場面でものすごい意地悪な自分が顔を出して、発散しているのよ。ほんと、ちっともエラくなんかないんだって。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2021年11月4日号