なぜ、あんなにも引き込まれてしまうのだろうか。ピアノの上手さ、即興で演奏してしまう凄さ、アレンジの面白さだけではない。そこには、人々がピアノに抱いている先入観や固定観念をひっくり返す「雰囲気の見える化」があると思う。
多くの人は、クラッシックやジャズピアノはお金を払ってお洒落して聴きに行くというイメージを持っている。しかしハラミちゃんは、この堅苦しさや敷居の高さを、金髪に帽子、カジュアルな服装にポシェット、ニコニコの笑顔という見た目の視覚的効果で崩してしまう。ピアノの前に座るハラミちゃんにも、「さあ今から演奏しますよ」といった大仰な構えは見られない。「ピアノを身近な存在にする」という彼女の活動目標が、そのまま目に見える形になっている。
また個人的意見だが、ストリートピアノといえば、広場にポツンと置かれたピアノで子供たちが『猫踏んじゃった』や習い立ての曲を弾いていたり、腕に自信のある人が弾くクラッシックの名曲に足を止め、その場で耳を傾けるようなイメージだ。だが彼女は、クラシックやジャズに限らず、誰もが知る曲を楽しげ気に伸び伸びと演奏している。その音色に自然と人々が集まり、彼女を中心に特別な経験ができる空間へと、場の質感が変わっていく。楽しげ気な雰囲気はより鮮明になり、笑顔は伝染すると心理学で言われているように、そこにいる人々を笑顔にさせる力があるのだ。
ある感性工学の論文に“雰囲気を設計する”という表現があるが、ハラミちゃんはその見た目や表情、即興演奏というパフォーマンスで、その場に応じて雰囲気を設計してしまうのだろう。彼女のピアノをさまざまに評価し、批判する声もあるようだが、良くも悪くも注目されていることに変わりはない。
紅白では、大物ミュージシャンとの共演や視聴者からのリクエスト曲の即興演奏などが検討されているらしい。どんな演奏になるのか、大晦日の楽しみが1つ増えた。