ライフ

渡辺明名人が語る藤井聡太三冠対策「策はない。奇策が通じる相手でもない」

(写真/共同通信社)

藤井聡太三冠をどう攻めるか(写真/共同通信社)

 いよいよ竜王獲得に王手と、藤井聡太三冠の快進撃が止まらない。「現役最強」とも称される渡辺明名人は、自身にとって脅威となる若き棋士をどう見ているのか。また、「4強時代」と言われる将棋界の勢力図はこれからどう変わるのか。11月12、13日の竜王戦第4局を前に、将棋観戦記者の大川慎太郎氏が渡辺名人に胸の内を聞いた。(全4回の第3回)
【文中一部敬称略】

 * * *
 渡辺が藤井とタイトル戦で顔を合わせたのは2回。昨年と今年の棋聖戦五番勝負で、最初は1勝3敗、2度目は3連敗だった。最初のシリーズが決着した夜、私は渡辺に話を聞く機会があった。次に藤井と指す時はどうするのかを尋ねると、「特に策はないです」。お手上げのように映った。タイトル戦で2回戦った現在、次はどういう方針で戦うのだろうか。渡辺はいう。

「取り立てて策はないです。奇策が通じる相手でもないし。自分はもう、将棋を一から作り変える年齢ではありません。自分がトッププロとしてやるのもあと5年くらいでしょう。もっと若かったら、藤井さんに勝つために将棋の型を作り替えることも考えるかもしれませんけどね。だから今までやってきた対策の延長上になります」(渡辺明名人、以下同)

 そうは言っても何も手を打っていないわけではない。今年の棋聖戦の後、渡辺は100万円以上するデスクトップパソコンを購入し、新しいAI(人工知能)を導入した。当然、藤井対策の一環である。

「まだ試行錯誤中で、具体的な成果が出るのはしばらく先ですね」と渡辺は言う。性能がよければAIに探索させる時間が短くて済むので、効率アップは疑いない。論理的思考に秀でている渡辺はAIを使って戦略を構築するのが得意で、「いま自分がキャリア最後のピークを迎えているのは、3年くらい前から始めたAI研究が自分の特性に合っていたからなんです」と明かす。

 藤井にタイトル戦で唯一の勝利を挙げた昨年の棋聖戦第3局では、渡辺の長所が全開になった。なんと渡辺は90手目までを事前に調べており、自分が優勢だとわかっていたのだ。とてつもなく深い研究が奏功し、待望の1勝をもぎ取った。

 では同じことをやればいいじゃないかと思われるかもしれないが、「ああいう感じで研究がドンピシャで当たることはほぼないです。あの将棋は自分の長所が出ましたよね。だけど今後もバンバンできるかといったら無理です。相手も警戒してくるし、将棋の局面は広い。お互いに思惑があるので、途中で一手外れてしまったら、もうその研究はパーになるので」と渡辺は言う。

 そもそもAIの研究などで策を練ろうというのは「基本的に弱者側がやることです」と渡辺は言い切った。

「だって強いほうは、どーんと構えていればいいわけですから。序盤が互角なら、あとは普通にやれば自分が勝つという考えを持つでしょう。藤井さんもそうだと思いますよ。僕だって対策を深く練るのは、自分と同格の相手と対戦する時だけですからね」(全4回の第3回)

(第4回につづく)

【プロフィール】
大川慎太郎/1976年生まれ。将棋観戦記者。出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に『証言 羽生世代』(講談社現代新書)などがある。

※週刊ポスト2021年11月19・26日号

関連記事

トピックス

9月6日から8日の3日間、新潟県に滞在された愛子さま(写真は9月11日、秋篠宮妃紀子さまにお祝いのあいさつをするため、秋篠宮邸のある赤坂御用地に入られる様子・時事通信フォト)
《ますます雅子さまに似て…》愛子さま「あえて眉山を作らずハの字に落ちる眉」「頬の高い位置にピンクのチーク」専門家が単独公務でのメイクを絶賛 気品漂う“大人の横顔”
NEWSポストセブン
川崎市に住む岡崎彩咲陽さん(当時20)の遺体が、元交際相手の白井秀征被告(28)の自宅から見つかってからおよそ4か月
「骨盤とか、遺骨がまだ全部見つかっていないの」岡崎彩咲陽さんの親族が語った “冷めることのない怒り”「(警察は)遺族の質問に一切答えなかった」【川崎ストーカー殺人】
NEWSポストセブン
最新機種に惑わされない方法とは(写真/イメージマート) 
《新型iPhoneが発表》新機能へワクワク感高まるも「型落ち」でも充分?石原壮一郎氏が解説する“最新機種”に惑わされない方法
NEWSポストセブン
シーズンオフをゆったりと過ごすはずの別荘は訴訟騒動となっている(時事通信フォト)
《真美子さんとの屋外プール時間も》大谷翔平のハワイ別荘騒動で…失われ続ける愛妻との「思い出の場所」
NEWSポストセブン
選手会長としてリーグ優勝に導いた中野拓夢(時事通信フォト)
《3歳年上のインスタグラマー妻》阪神・中野拓夢の活躍支えた“姑直伝の芋煮”…日本シリーズに向けて深まる夫婦の絆
NEWSポストセブン
学校側は寮内で何が起こったか説明する様子は無かったという
《前寮長が生徒3人への傷害容疑で書類送検》「今日中に殺すからな」ゴルフの名門・沖学園に激震、被害生徒らがコメント「厳罰を受けてほしい」
パリで行われた記者会見(1996年、時事通信フォト)
《マイケル没後16年》「僕だけしか知らないマイケル・ジャクソン」あのキング・オブ・ポップと過ごした60分間を初告白!
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン
『東京2025世界陸上』でスペシャルアンバサダーを務める織田裕二
《テレビ関係者が熱視線》『世界陸上』再登板で変わる織田裕二、バラエティで見せる“嘘がないリアクション” 『踊る』続編も控え、再注目の存在に 
NEWSポストセブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビーカーショットの初孫に初コメント》小室圭さんは「あなたにふさわしい人」…秋篠宮妃紀子さまが”木香薔薇”に隠した眞子さんへのメッセージ 圭さんは「あなたにふさわしい人」
NEWSポストセブン
試練を迎えた大谷翔平と真美子夫人 (写真/共同通信社)
《大谷翔平、結婚2年目の試練》信頼する代理人が提訴され強いショックを受けた真美子さん 育児に戸惑いチームの夫人会も不参加で孤独感 
女性セブン
海外から違法サプリメントを持ち込んだ疑いにかけられている新浪剛史氏(時事通信フォト)
《新浪剛史氏は潔白を主張》 “違法サプリ”送った「知人女性」の素性「国民的女優も通うマッサージ店を経営」「水素水コラムを40回近く連載」 警察は捜査を継続中
NEWSポストセブン