2015年に北の湖理事長(中央)が他界し、協会の歪な内情が少しずつ明らかに(時事通信フォト)
公印も管理できていない
前述したパチンコ台の契約を巡る裏金疑惑はもともと、北の湖理事長が存命だった2014年に『週刊ポスト』のスクープによって明るみに出たものだ(同年1月24日号掲載)。
記事では、大手パチンコメーカーとの間に入った代理店経営者A氏が、小林氏に対して500万円の札束が入った紙袋を手渡す動画の内容とともに、その後にビジネスから外されたA氏の「理事たちを懐柔する“実弾”が必要だと裏金を要求され、2回にわたって計1700万円を渡した」とする証言を報じた。動画には分厚い札束を手にする小林氏の姿や「絶対これ、バレんようにしてくれる?」「(残りは)小分けでも構わんですよ」といった生々しい音声が収められていた。
「当時、国技館改修工事を巡る資金の流れやパチンコ裏金疑惑を問題視したのが、理事だった元横綱・千代の富士の九重親方だった。しかし、北の湖理事長体制下では“裏金はすぐに返した”といった小林氏の主張が通って追及は叶わず、直後の2014年1月末の理事選で九重親方は落選。小林氏の言い分を信じた北の湖理事長が、九重親方が自分の地位を脅かそうとしていると考えて、票を回さずに失脚させたとされている」(前出・協会関係者)
東京地裁の証言台に立った八角理事長は、そうした協会組織の歪な実態を認める告白を続けた。
「(小林氏は)チケット(の差配)や国技館改修工事に干渉してきた。協会内部でストップがかけられなかった。北の湖理事長と近いため、(追及すれば)変な噂を流されることになる」
当時の九重親方の失脚についても、小林氏が国技館改修工事の代金から裏金を捻出する計画を持ちかけ、九重親方がそれに応じなかったために、「千代の富士さんは、小林に悪口を言われて(理事選で)足を引っ張られた」と説明。協会の理事選出に、1人の顧問が大きな影響力を持っていたと主張したのだ。
その後、自らが改修工事を取り仕切る役職に就いてからも、「(工事を)拒否して足を引っ張ったら(小林氏に)悪い噂を流される」「必要ない工事を止められず、苦しくて精神的に参った。不整脈で病院に運ばれたこともある」と、要職にありながらその地位を追われる恐怖に駆られていたことを明かしている。
さらには、裏金疑惑のあったパチンコ台の契約についても「締結は小林がやって、協会には説明がなかった」「私は(事業部長として)公印は押していない」として、公益財団法人たる協会の公印が、適切に管理できていない実態まで証言した。
その後の裁判官からの質問にも「(小林氏の悪評を流すと)選挙や役員改選で不利になる」「(北の湖理事長に対して)はっきりダメとは言えなかった」「下手に言うと協会内の立場が危うくなる」などの主張を繰り返した。
最後に八角理事長は「私は理事長として6年間、公明正大に運営してきましたが、小林が私腹を肥やしていて残念です。今後はこのようなことがないようにしたい」と宣言したが、裏金疑惑の当時からナンバー2の立場にあったという自覚は感じられなかった。
それほどまでに小林氏の影響力が大きかったということなのか。公判では、続いて小林氏その人が証言台に立った。