裏金の授受が“演技”?
小林氏は八角理事長や傍聴席に陣取る親方衆の鋭い視線にも気後れすることなく、協会の人事に影響力があったとの原告側の主張に対し、「北の湖理事長が決めていた」「人事には関与していない」とし、九重親方を2014年の理事選で落選させたという疑念についても「できるはずがない。親方衆の票で決まる。一般人が入る余地がない」と否定。協会側とは真っ向から食い違う主張を展開し、国技館改修工事の業者の選定なども、すべて北の湖理事長の意向に沿ったものだと証言した。
パチンコ台の契約を巡る裏金については、札束を手渡したA氏が経営する代理店に旧知の間柄だった従業員がいて、その従業員の顔を立てるためにいったん受け取ってからすぐに返却したと主張。
動画に残された「バレんようにしてくれる?」という言葉については、その旧知の従業員を助けるために「(演技を)真剣にやっただけ」と言ってのけた(A氏は『週刊ポスト』取材に裏金は返却されていないと証言している)。同氏が代表を務めたコンサルティング会社への協会関連業者からの振り込みも、「従業員が担当した仕事。関知していない」と平然と答えた。
八角理事長や協会幹部は、その様子を苦々しい表情で見つめていた。
それもそのはずだ。この裁判における対立構図は、ここ数年の協会内での激しい内紛にもつながってくるのだ。
「北の湖理事長の死後、後ろ盾を失った小林氏は、八角理事長への接近を試みたが、不信感が強く、懐柔は難しかった。そこで今度は貴乃花親方を担ぎ上げて理事長にしようと画策したのです。貴乃花親方はモンゴル力士の暴行事件をきっかけに協会執行部と激しく対立し、2018年に追われるように協会を退職したが、小林氏と接近したことを快く思わない親方衆は多く、協会内で孤立した一因だった」(ベテラン記者)
協会、小林氏の代理人の双方に進行中の裁判についての見解を改めて問うたが、回答はなかった。
裁判は年明けには結審する予定だ。角界における様々な騒動の震源となってきた対立構図に、どのようなかたちで決着がつくのか。
※週刊ポスト2021年11月19・26日号