「弱かった右足首がさらに弱く」
羽生欠場の影響は甚大だ。
「彼にとっての今シーズンの初戦で、しかも日本で開催されるNHK杯。さらには新しいショートプログラム(SP)のお披露目、羽生選手自身が明言していた4回転半ジャンプへの挑戦と、いくつもの大きな期待を集めていました。それだけに欠場にショックを受けたファンも多く、欠場発表後には公式チケットトレードサービス『チケプラトレード』に大量の売り注文が出されたほどです」(スポーツ紙関係者)
『チケプラトレード』は、「譲りたい人」と「希望する人」が定価で取引できる制度で、すでに多くのコンサートや公演で利用されている。前述のとおり、今回のNHK杯は注目を集める大会だったためチケットの競争率はかなり高かったが、羽生の欠場発表から丸1日経過した時点で、約3000枚もの取引が成立したという。
だが、やはり心配なのは羽生のケガの状態だ。「右足関節靱帯損傷」とは、いったいどのようなものなのか。スタンフォード大学整形外科の医師・三戸一晃さんが解説する。
「足首には外側と内側に靱帯があり、それらは足首の関節を支えるとともに、足関節が必要以上に可動しないように支えています。その靱帯を傷つけてしまうのが、靱帯損傷で、足関節に腫れや痛みが出て、重度の場合は歩くことも困難になります」
足首の外側を支えているのが外側靱帯、内側を支えているのが三角靱帯で、損傷した箇所や損傷の度合いによって、復帰の目処も変わってくるという。実は、羽生が右足首の靱帯を損傷したのは、今回が初めてではない。そのためケガが再発しやすくなっている可能性が高いと三戸さんは指摘する。
「いわゆる足首の靭帯の損傷は、関節外側副靱帯の損傷がほとんどです。足が内返しになることで生じる、とても起こりやすいケガの1つ。ギプス固定などを行って、一般的には2~3か月で大半が治癒し、さらに半年くらいかけて少しずつ治癒します。
ただし、治癒したとしても、ケガをした組織は元のような柔軟性のある靱帯ではありません。そのため断裂しやすい、ケガを再発しやすい状態になっている。特に羽生選手のような世界のトップレベルの選手の場合、足首の関節には極めて強い負担がかかっているのでなおさらです」
羽生の右足首の最初のケガは2017年。NHK杯の公式練習中に転倒して負傷し、「右足関節外側靱帯損傷」と診断された。当初は3~4週間ほどで元に戻るとの診断だったが、その後、腱と骨にも炎症があったため、回復には時間を要した。結局、羽生は一度も試合に出ることなく、ぶっつけ本番で平昌五輪に臨み、五輪2連覇という偉業を達成した。
2度目のケガはその翌年、2018年のGPファイナル直前のこと。フィンランド大会を制した後、ロシア杯に臨んだが、フリー当日の公開練習で着氷に失敗して転倒。痛みに耐えながら出場して見事に優勝したが、その代償は大きかった。右足関節外側靱帯と三角靱帯損傷、右腓骨筋腱部損傷という重傷で、GPファイナルを欠場。復帰したのは4か月後の2019年3月の世界選手権となった。2018年、羽生は自身のケガについてこう述べている。
「去年のNHK杯以降、より弱かった右足首がさらにゆるくなってしまっている。ほんのちょっとの衝撃でも、すぐ捻挫になってしまうというのは、本当に悔しい」