全日本選手権に間に合わせたい
同じ右足首の3度目のケガとなった今回は、完治がさらに遅れる可能性もあるのではないか──。しかし、スポーツジャーナリストの折山淑美さんは「今回のケガは過去のそれとは違うように感じます」と指摘する。
「羽生選手は本当に自分の体を熟知しています。今回は、どの程度のケガなのか、全治何週間、何か月なのかもまったく発表されていませんが、彼はこれまでの経験を踏まえて、“これ以上根をつめたらケガが悪化してしまう。いまは少し抑えた方がいい”と自分で判断したのだと思います。
また、このタイミングでNHK杯の欠場を判断したということは、年末に行われる北京五輪の最終選考会でもある全日本選手権に間に合わせたいという気持ちがあるのではないでしょうか」
たしかに2018年のケガのときは歩くこともままならなかった。だが、今回は冒頭のようにアイスリンクに出入りする姿が目撃されている。
「羽生選手自身が氷上でのリハビリを口にしているということは、ケガの状態がこれまでほどは重くなく、すでにリンクに立てる状態にあるということだと思います。また、これは憶測ですが、もしかすると4回転半を決められるという感覚が掴めていたからこそ、ちょっと無理をしてしまったのかもしれない。4回転半の完成が近いということもあるかもしれません」(折山さん)
ケガという絶望的とも思えるニュースの裏で、羽生のメンタルに期待を寄せる声もある。2018年、平昌五輪に挑んだとき、羽生は「逆境は嫌いじゃない」と口にしていた。
「羽生選手は挑戦することを大事にしているし、挑戦することをすごく楽しんでいる。そして何より、挑戦している自分が好きなんです。
その分、ケガのリスクは常につきまといますが、そのリスクも覚悟の上というか、フィギュアスケートという競技自体がリスクのある競技だということも理解して挑んでいる。だから彼にとっては、ケガも“挑戦していることの証”。ケガを恐れず、常に進化していきたい、新しい世界を見てみたいという精神を持った選手なんです」(折山さん)
国際オリンピック委員会(IOC)の公式サイトは11月6日、ブライアン・オーサーコーチが今回の羽生のケガによるNHK杯欠場について「彼の本能と直感、望む方向を信頼している」と語ったことを伝えている。同サイトのインタビュー内容を読むと、オーサーコーチの羽生に対する絶大な信頼が、伝わってくる。
《彼は充分な経験を積んでいるので、自分が下した決断が正しいものであることを知っている(中略)彼は自分が何をしているかをわかっていて、コーチングチームに頼る必要はありません(中略)私たちは彼の後ろに立ち、彼をサポートしていく》