hashimoto_tomofumi

古本屋に流れる時間を記録した『東京の古本屋』

PCR検査を受けてから取材先に行くように

 複数の店主が、同業者が面白い、同業者と会うのが楽しみ、と話しているのも面白い。

「古本屋さんどうしの関係ってすごく不思議で。おたがい商売敵なんですけど、仲がいいんですよね。もちろん、きちんと距離はあるんですけど、会うと一緒にお昼食べに行ったり、世間話をしていたり。横で見ていて楽しそうなんです。ぼくの取材も、『ほかの店の話を読みたい』と言われるかたが多かったです」

 取材を始めたのが2019年12月の暮れ。年が明けてしばらくすると、新型コロナウイルスの感染が広がっていることが判明し、連載は思いがけず、コロナ禍の東京の風景を記録することにもなった。

「取材を始めたときは、まさかこんなことになるとは思ってもみなかったです。

 きっかけとなったオリンピックは、このまま開催されないんじゃないかと思ったのに、1年延期して開催されて。1年の予定だった取材も、緊急事態宣言の影響で中断を余儀なくされて、予定より半年延びて、オリンピックが始まるタイミングで取材が終わることになったことは感慨深いです」

 感染が拡大して2020年4月に緊急事態宣言が出ると、古本屋は東京都が「基本的に休業を要請する施設」に指定された。小規模店舗は営業することもできたが、休業すれば協力金が出る。予想もしなかった事態に、店それぞれに対応を迫られることになった。

「2020年3月に『BOOKS青いカバ』さんで取材していたときに、『古書往来座』の瀬戸さんがビールを持って遊びに来てくださって。『青いカバ』の小国さんと瀬戸さんが、緊急事態宣言が出たら、ロックダウンになったらどうしますか、という話を真剣にしていて、こういう声をきちんと書き留めておかないと、と思いました」

『本の雑誌』のウェブに連載していた橋本さんの取材も、宣言の後でいったん中断し、7か月後に再開した。PCR検査を受けてから取材先に行くようにし、開店からずっと滞在するのではなく、1時間いて、次の1時間は外に出る、という形でもと依頼して、下北沢の「古書ビビビ」の取材が実現したという。

「朝から晩まで、3日間取材するというやり方は確かに効率が悪いですけど、ぼくにとっては全然苦じゃなかったです。短時間で効率よく取材して、というやり方は、ぜんぜん上手じゃない。依頼されての取材ならもちろんそれもやりますけど、こういうやり方のほうが自分には向いていると思います」

【プロフィール】
橋本倫史(はしもと・ともふみ)/1982年広島県東広島市生まれ。2007年に『en‐taxi』に寄稿し、ライターとしての活動をスタート。同年にリトルマガジン『HB』を創刊。著書に『ドライブイン探訪』『市場界隈 那覇市第一牧志市場界隈の人々』がある。来年2月に、沖縄のやんばるに浮かぶ小さな離島・水納島を取材した『水納島再訪』(仮)を刊行予定。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2021年11月25日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

3つの出版社から計4冊の書籍が発売された佳子さま(時事通信フォト)
「眞子さんにメッセージを送られているのでは」佳子さま(30)のワイン系ツイードジャケットに込められた“特別な想い”《お二人の思い出の場でお召しに》
週刊ポスト
再び頂点を掴めるのか(大谷翔平/時事通信フォト)
【MLB開幕・ドジャース連覇への道のり】早々に地区優勝を決めてもポストシーズンでの“ドジャース病”を危惧する声 ワールドシリーズで立ちはだかるのは大型補強のレッドソックスか
週刊ポスト
「W復帰」の可能性も囁かれる(時事通信フォト)
《ダウンタウン“W復帰”の可能性》浜田雅功の休養が松本人志のネット復帰計画に与える影響は?「夏頃にはコンビとしてアクションを起こすのでは」との指摘
週刊ポスト
自殺教唆の疑いで逮捕された濱田淑恵容疑者(62)
【独占入手】女占い師の自殺教唆事件で亡くなった男性の長男が手記「200万円の預金通帳を取り上げられ…」「学費と生活費をストップ」、さらに「突然、親子の縁を切る」 警察に真相解明も求める
NEWSポストセブン
2023年12月に亡くなった八代亜紀さん
《前代未聞のトラブル》八代亜紀さん、発売予定の追悼アルバムの特典に“若い頃に撮影した私的な写真”が封入 重大なプライバシー侵害の可能性
女性セブン
旭琉會二代目会長の襲名盃に独占潜入した。参加者はすべて総長クラス以上の幹部たちだ(撮影/鈴木智彦。以下同)
《親子盃を交わして…》沖縄の指定暴力団・旭琉會「襲名式」に潜入 古い慣習を守る儀式の一部始終、警察キャリアも激高した沖縄ヤクザの暴力性とは
NEWSポストセブン
濱田淑恵容疑者の様々な犯罪が明るみに
《男性2人に自殺教唆》自称占い師・濱田淑恵容疑者が被害者と結んでいた“8000万円豪邸の死因贈与契約” 被害者が購入した白い豪邸の所有権が、容疑者の親族に移っていた
週刊ポスト
キルト展で三浦百恵さんの作品を見入ったことがある紀子さま(写真左/JMPA)
紀子さま、子育てが落ち着いてご自身の時間の使い方も変化 以前よりも増す“手芸熱”キルト展で三浦百恵さんの作品をじっくりと見入ったことも
女性セブン
被害者の「最上あい」こと佐藤愛里さん(左)と、高野健一容疑者の中学時代の卒業アルバム写真
〈リアルな“貢ぎ履歴”と“経済的困窮”〉「8万円弱の給与を即日引き落とし。口座残高が442円に」女性ライバー“最上あい”を刺殺した高野健一容疑者(42)の通帳記録…動機と関連か【高田馬場・刺殺】
NEWSポストセブン
ビアンカ・センソリ(カニエのインスタグラムより)
《あられもない姿でローラースケート》カニエ・ウェストの17歳年下妻が公開した新ファッション「アートである可能性も」急浮上
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
〈50まんでおけ?〉高野容疑者が女性ライバー“最上あい”さんに「尽くした理由」、最上さんが夜の街で吐露した「シンママの本音」と「複雑な過去」【高田馬場刺殺事件】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! マイナ免許証の恐ろしい重大リスクほか
「週刊ポスト」本日発売! マイナ免許証の恐ろしい重大リスクほか
NEWSポストセブン