かつては荒川静香や浅田真央を指導したタラソワ(写真/Getty Images)
大きなルール変更は五輪後に
羽生が連覇を決めた2018年の平昌五輪後にも、大きな採点ルールの変更があった。技の「出来栄え点(GOE)」の幅が広がり、プラスマイナス3の7段階から、プラスマイナス5の11段階に拡大され、同じジャンプでも出来栄え点で大きな差がつくようになった。また、男子のフリーの演技時間が4分30秒から4分に短縮された。
「ただ回転するだけでなく、“美しいジャンプ”を跳ぶ羽生選手なら大きな加点がもらえる。フリーの競技時間の短縮もスタミナに課題のある羽生選手には有利に働くと思われました」(フィギュアスケートジャーナリスト)
だが、その後の羽生は、GOEをめぐって苦い思いを経験することになる。
「顕著だったのは、羽生選手がネイサン(・チェン)選手に敗れて3位に終わった2021年3月の世界選手権で、羽生選手のGOEが“低すぎる”と話題になりました。4月の国別対抗戦では“彼の点数の低さがより明らかだった”と主張する関係者も少なくありませんでした」(別のフィギュアスケート関係者)
例えば、羽生が国別対抗戦のフリーの最後に跳んだ3回転アクセルは、
「高さ、スピード、ジャンプの入り方など、どれを見ても完璧でした。しかし、GOEは3か4止まり。満点の5をつけたジャッジは1人もいませんでした。これにはさすがに驚きましたね」(前出・フィギュアスケート関係者)
スポーツジャーナリストの折山淑美さんが指摘する。
「ジャンプ前のつなぎ方によってもジャンプの難易度は変わります。GOEに関しては、直前まで演技をつないで跳ぶ羽生選手のようなジャンプと、構えて静止状態から跳ぶ選手では、もっと差があってもいいと思うことがありました」
“黒幕”はかつての金メダルメーカーか
羽生は2020年、早稲田大学人間科学部通信教育課程を卒業したが、その卒業論文は学術誌にも掲載された。そのなかで彼は、フィギュアスケートの採点制度が《その試合の審判員の裁量に委ねられている部分が大きい》と指摘。さらに自らの手首やひじの関節など最大32か所にセンサーをつけ、ジャンプなどの動きをデジタルデータ化する研究を行った結果、AIによって《ジャンプに関してだけでなく、ステップやスピンなどの技術的な判定は完全に(デジタル化)できるように感じた》と記している。
羽生がこうした研究に取り組んだのは、言うまでもなく、審判員の“主観”に頼らない公正なジャッジのあり方を追求するため。そこには後輩たちに“不公平のない未来”を描いてあげたいという思いも込められていた。