国内

故・古谷三敏さんが語っていた「手塚治虫さんのアシ時代」

手塚治虫とさまざまなやりとりもした古谷三敏氏(時事通信フォト)

古谷三敏氏は手塚治虫氏のアシスタントを務めたいた(時事通信フォト)

『ダメおやじ』『BARレモン・ハート』で知られる漫画家、古谷三敏さんが12月8日、がんのため死去した。85歳だった。亡くなる半年前の今年6月、『週刊ポスト』の取材を受けた古谷さんは、1958年から3年間アシスタントを務めた師・手塚治虫への想いを語っていた。亡き師への敬意や愛情が溢れたインタビューだった。その時に語っていた内容をお届けする。

 * * *
 高田馬場に漫画の通信教育のようなものがあって、そこに漫画を送ると出版社の人が読んでくれて、場合によっては採用されるというシステムでした。16ページくらいの漫画を描いて送ったら、手塚先生のマネージャーの目に止まったらしいんです。手塚先生の絵柄に少し似ているということで、「この人がいいんじゃないか」と実家(茨城県鹿島)に葉書が送られてきました。その頃はすでに東京に出てきて、品川のおばさんの家にいましたが、たまたま東京に出てくる用事があった隣の家の人が、その葉書を届けてくれました。

「アシスタントを募集しているので来ないか」という内容だったので、嬉しくなって翌日、初台のご自宅に行きました。朝の8時にピンポンを鳴らすと、寝間着姿の先生が出てきて、「漫画家ってのは朝遅いんだから、こんな早くに来ちゃダメだよ。もう少し寝るから、応接間でテレビでも観ていなさい」と言われて、お昼まで時間を潰していました。マネージャーさんには「葉書を出したばかりなのに、もう来たのか」と言われました(笑)。どうも、同じように3~4人にアシスタント募集の葉書を出したようでしたが、僕が一番乗りだったので即採用になりました。僕の後に採用になったのが後のアニメーターの重鎮の月岡貞夫さん。他にも後から来た人もいたようですが、すでに決まっていたので帰された人もいたようです。

 先生にはいっぱい怒られました。『冒険王』という雑誌に『魔人ガロン』という作品を連載している時に、ローラースケートを履いて後楽園の中に迷い込むというシーンがありました。後楽園の壁にいろんな広告があるでしょう。その広告の絵を任せるから、「何でもいいから広告を書いてくれ」と言われたので、お酒の広告を3~4つ描いたんですよ。そうしたら、「子供の雑誌なのに酒の広告を描いて、どうするんだ!」と怒られました。電話で「これ書いたの誰?」と言われたので「僕です!」と答えたら、「僕じゃ分からん、名前を言え!」「古谷です」と怒られたのを覚えています。昔は小学館の前に旅館があって、「古谷、今から行くから一緒に来い」と言われたんだけど、当時、僕は下駄を履いていたんですよ。先生は下駄が嫌いで「何で靴をはいてこない」といつも怒られて。でも下駄が好きだったので、その日も履いていて、これは怒られると思ってスリッパを履いて外に出たら、「スリッパ履いて外歩く奴がいるか!」と余計に怒られたこともありました(笑)。

 漫画に関しては、背景すら描かせてもらえなかったですね。ベタと仕上げと、バックに縦線を入れてぼかしたり、そのくらいで。それぞれの担当が表になっていました。凄いのは宝塚に帰省中の先生から電話がかかってきた時、「このバックは~」などと指定されるんですけど、全部その表が頭に入っていて、「ここを描いたのは誰? 指定したのと違うじゃないか」と細かくチェックする。怒られるのが嫌だから、みな電話に出ず、逃げていたのを覚えています(笑)。先生から作品が送られてきて見ると、毎回「上手いなぁ」と感心しきりでした。先生があまりにも偉大過ぎるので、「俺たち漫画家にはなれないな……」とアシスタントが委縮してしまうこともありました。月岡さんはアニメーターになりましたが、別の分野を目指していく人もいました。

関連記事

トピックス

内田容疑者とともに殺人容疑がかけられている19歳のA子。内田容疑者のSNSにはA子が頻繁に登場していた
共犯の19歳A子を“舎弟”と呼んだ内田梨瑚容疑者(21) 殺害直後、タバコ片手にノリノリで『非行少女』を歌う姿をSNSに投稿 「頬を寄せながら……」【旭川・女子高生殺害】
NEWSポストセブン
訪英に向け、慎重を期されている(4月、東京・千代田区。撮影/JMPA)
【消せないトラウマ】雅子さま、訪英直前の記者会見は欠席か ロンドン到着後の日程も不透明 「慎重すぎるのでは…」との指摘も
女性セブン
坂口憲二(時事通信フォト)
映画『キングダム』“第5弾以降”の撮影が7月に開始へ、坂口憲二が出演か 『教場』で共演した木村拓哉が復帰を後押し
女性セブン
殺人未遂容疑で逮捕された笹山なつき容疑者
《鹿児島2歳児カッター切りつけ》3月末に10人退職…“要塞”と揶揄される保育園の中で何が「口調の強い園長先生」「新卒職員が2カ月で髪ボサボサで保護者会に…」近隣住民語る10年前の異変
NEWSポストセブン
殺人容疑で逮捕された内田梨湖容疑者(SNSより)
《強気な性格の私も愛して》内田梨瑚容疑者がSNSの写真転載にキレた背景に加工だらけのTikTok投稿【旭川・女子高生殺害】
NEWSポストセブン
「完封デート」の小笠原慎之介選手(時事通信)
中日・小笠原慎之介“北川景子似美女”と焼肉→ホテルの「完封デート」撮 “モテないキャラ”も育んでいた遠距離愛
NEWSポストセブン
殺人容疑で逮捕された内田梨瑚容疑者(SNSより)
《17歳の女子高生を殺害》昼は化粧品店で働いた内田梨瑚容疑者(21)が旭川の繁華街「未成年飲酒・喫煙」界隈で見せていた「ヤンキー系」素顔
NEWSポストセブン
トンボ論文で話題になった悠仁さま
悠仁さま「トンボ研究」が一段落 赤坂御用地内の御池の改修工事は10年の沈黙を破って再開
女性セブン
三田寛子と中村芝翫夫婦の家で、芝翫と愛人が同棲しているという
【不倫真相スクープ】三田寛子、実家を乗っ取られた? 中村芝翫と愛人の生活が“通い愛”から同棲に変化 ガレージには引っ越しの段ボールが山積み
女性セブン
自転車で牧場を回られる陛下、雅子さま、愛子さま
愛子さまが御料牧場でタケノコ掘り、ご一家でのサイクリング、愛猫&愛犬…貴重な写真を公開
女性セブン
殺人容疑で逮捕された内田梨瑚容疑者(SNSより)
「リコ的に“年下に舐めた態度をとられた”」17歳女子高生を橋から落とした21歳容疑者が引けなくなった「イキリ体質」証言【旭川・女子高生殺害】
NEWSポストセブン
「孤独死」は決して他人事ではない(写真/PIXTA)
【増加する孤独死】“生涯未婚率の上昇”“熟年離婚の増加”の影響 高齢者と社会との接点の少なさも後押し
女性セブン