(公式HPより)

役者としてのキャリアも豊富(公式HPより)

 薬丸が演じる滋とは、救いようのないダメ男である。本作は、主演の岡田やヒロインの川口だけでなく、緒形直人(54才)や真木よう子(39才)、渋川清彦(47才)といったベテラン揃いで構成されているが、その中でも薬丸の存在は一際目を引く。不貞を悪びれることなく薄ら笑いを浮かべる姿や騒々しく彼女にすがる姿など、振る舞いの一つひとつが強烈なインパクトなのだ。滋という、絶えず変化し続けることが求められる不安定な役どころを、薬丸は申し分なく演じていたと思う。
 
 薬丸といえば、かつて岡田と共演したドラマ『生徒諸君!』(テレビ朝日系)をはじめ、映像作品への出演作も多々あり、キャリアは決して短くはないものの、今作で彼の存在を認識した人も多かったようだ。近年は舞台を主軸に活動している印象があるが、作品のキーパーソンという大役に抜擢された本作には、彼が演劇の世界で培ってきたものが確実に活きているように感じた。本作での薬丸は、他の共演者と比べても圧倒的に“上手い”のだ。

 これまでにも彼は、イキウメ作品に参加している。作・演出を手がける前川が描くのはいつも、“日常と隣り合わせにある恐怖(あるいは謎)”。稽古場では、出演者同士のディスカッションが行われ、前川の志向するものを皆で共有することが求められるだろう。『聖地X』も、映画版とはいえこれまでイキウメ作品に関わってきた薬丸だからこそ、誰よりも作品の“本質”の近いところに達しているように感じた。

 例えば、歯の浮くようなセリフの言い回しや、泣き笑いのような表情には、内面と外面とのズレを表現する彼の力量が見て取れた。役の立ち位置や脚本への理解をはじめ、誰よりも作品の核心部分に触れている薬丸だからこそ、本作での名演が実現しているのではないかと思う。演技の良し悪しやレベルは、観客の感覚や好みで決まるものだと思うが、本作における薬丸の演技は、誰よりも優れていたと断言できるほど素晴らしいものだった。

「演劇人」と呼ぶにふさわしい存在の薬丸翔。今後、本作を観たクリエイターたちからのラブコールが止まらなくなるのではないかと思わずにはいられない。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン