病に苦しんだ、英雄ナポレオンの最期

 さらに病気に関するニュースを取り上げる。「ナポレオンの晩年の病状、担当医師による希少な手記で明らかに」(『CNN.co.jp』1月8日付)だ。

 ナポレオン・ボナパルト(1769~1821)は近代ヨーロッパの幕開けを飾った人物。フランスでは最大の「英雄」、ドイツやスペイン、ロシアでは「侵略者」と目されている稀代の風雲児である。

 ヨーロッパ全土の平定まであと一歩と迫りながら、1815年のワーテルローの戦いで敗北。南大西洋上の孤島セントヘレナへ流され、1821年に同島で生涯を終えた。享年51。

 その死因について、公式には胃がんとされたが、遺体の髪の毛から通常の何十倍ものヒ素が検出されたことを根拠に、1961年にスウェーデン人医師が主張した「ヒ素による毒殺説」が一時、注目を集めた。

 2005年にはスイス・バーゼル大学の研究チームが、最後の5か月で体重が11キロ以上も激減していたことを根拠として、「胃がんと消化管上部の出血により死亡」との結論を出し、その死因をめぐる議論は一応の決着が図られた。大量のヒ素については、「当時、ワインの樽を洗うのにヒ素を使用していたため、大のワイン好きだったナポレオンの体内からヒ素が検出されてもおかしくない」と説明された。

 この結論に納得していない人々もいたが、今回、幽閉中のナポレオンの治療にあたったアイルランド出身の医師バリー・エドワード・オメーラの手記が公開されたことで、「胃がん説」が補強されることとなった。

 同手記によれば、ナポレオンは頭痛、右半身の痛み、高熱、動悸といった諸症状に加え、不安障害や抑圧感にも悩まされていた。当人が激しい痛みを訴えたことから、左上の歯1本を抜かなければならなかったともいう。

 ちなみに、ナポレオンは身長167cm。1804年には67.8キロだった体重が1815年には82.5キロ、1820年には90.7キロにまで増えていたとの記録もあるから、加齢と肥満に過度のストレス、暴飲が重なれば、健康を害さないほうが、むしろおかしかった。

【プロフィール】
島崎晋(しまざき・すすむ)/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。最新刊に『鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史』(ワニブックス)がある。

 

関連キーワード

関連記事

トピックス

嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
SNSで「卒業」と離婚報告した、「第13回ベストマザー賞2021」政治部門を受賞した国際政治学者の三浦瑠麗さん(時事通信フォト)
三浦瑠麗氏、離婚発表なのに「卒業」「友人に」を強調し「三浦姓」を選択したとわざわざ知らせた狙い
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
昨年ドラフト1位で広島に入団した常広羽也斗(時事通信)
《痛恨の青学卒業失敗》広島ドラ1・常広羽也斗「あと1単位で留年」今後シーズンは“野球専念”も単位修得は「秋以降に」
NEWSポストセブン
中日に移籍後、金髪にした中田翔(時事通信フォト)
中田翔、中日移籍で取り戻しつつある輝き 「常に紳士たれ」の巨人とは“水と油”だったか、立浪監督胴上げの条件は?
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
新たなスタートを切る大谷翔平(時事通信)
大谷翔平、好調キープで「水原事件」はすでに過去のものに? トラブルまでも“大谷のすごさ”を際立たせるための材料となりつつある現実
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
元工藤會幹部の伊藤明雄・受刑者の手記
【元工藤會幹部の獄中手記】「センター試験で9割」「東京外語大入学」の秀才はなぜ凶悪組織の“広報”になったのか
週刊ポスト
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
【初回放送から38年】『あぶない刑事』が劇場版で復活 主要スタッフ次々他界で“幕引き”寸前、再出発を実現させた若手スタッフの熱意
【初回放送から38年】『あぶない刑事』が劇場版で復活 主要スタッフ次々他界で“幕引き”寸前、再出発を実現させた若手スタッフの熱意
女性セブン