元文科官僚・寺脇研氏
「総理の仰るとおりです」
豊田:新興感染症への対応というのは、時間の経過と状況の変化に応じて、変えていくべきもの。オミクロンなど変異株の出現はあるものの、2年が経って、当初よりもかなり新型コロナのことがわかってきた。ワクチンも経口薬も出てきた。だから政治家は手柄がどうとかではなく、官僚を使いこなして、共に力を合わせて、より良い政策の立案と実行をしてほしい。今の時代、岸田首相の「聞く力」はとても大切で、国民の声や官僚の意見を聞いて理解し、議論し、判断し実行して、責任を取る、そして、国民にきちんと説明する。そういうところからしか「政治の信頼」は生まれない。
原:僕の認識は少し違う。役所は緊急時対応が無茶苦茶苦手なんです。「何が起こるかわからない」とか、「こうやれば損害が生じうるが、大損害は避けられるかもしれない」といった局面での判断は大組織で議論しながらやってもまとまらない。官僚機構に任せていたら絶対に無理です。
ちゃんとした企業は危機対応が必要な時は経営者の判断で「もうこうするしかない」と決める。岸田内閣で基本的に役所に任せますという状態が続いていくと、本当に緊急を要する時に大丈夫かなと心配になる。
寺脇:重要なのは役割分担。決断するのは政治だが、それによってどんな影響が出るかのシミュレーションをしておくのは官僚の役割です。
それに失敗したのがコロナ感染拡大初期に安倍総理(当時)が小中学校の全国一斉休校を決断した時。あの頃、文科省は1か月前から、休校したら共働きの家庭の子どもをどうするかや、地域ごとの影響を詳細にシミュレーションして、全国一斉実施には問題があるとわかっていた。
しかし、総理が事務次官を呼んで「やりたい」と言うと、次官はシミュレーションのことは言わずに「総理の仰るとおりです。私もそう思っておりました」と答えた。忖度ですよ。本来なら、「一斉休校にはこういう問題があります」と説明して、総理の判断を変えてもらわなくてはならなかった。役人はメリットとデメリットを全部挙げ、政治家が判断するのが政治家と官僚の役割分担なのに、それが壊れていた。
豊田:コロナ一斉休校はマイナスの影響が大きかった。4か月間も実質上授業が行なわれず、重要な「教育の機会」が保たれなかった。20年度は小中高生や女性の自殺が増えた。社会経済や心身などへのコロナの影響は、数値化されていないものも含めてマイナスが非常に大きい。それをどのようにフォローしていくかは2022年の政治行政の大きな課題だと思う。
(後編につづく)
【プロフィール】
寺脇研(てらわき・けん)/1952年生まれ、福岡県出身。1975年文部省(当時)に入省。広島県教育長、政策課長、大臣官房審議官、文化庁文化部長などを歴任、2006年退官。京都芸術大学客員教授、映画評論家、映画プロデューサー。
原英史(はら・えいじ)/1966年生まれ、東京都出身。1989年通商産業省(当時)に入省。内閣安全保障・危機管理室、行政改革担当大臣補佐官、国家公務員制度改革推進本部事務局などを経て2009年退官。政策工房社長、大阪府・市特別顧問。
豊田真由子(とよた・まゆこ)/1974年生まれ、千葉県出身。1997年厚生省(当時)に入省。2002年ハーバード大大学院修士。2007年在ジュネーブ国際機関日本政府代表部に赴任。2012年に自民党から出馬し、衆議院議員(2期)、文科大臣政務官などを務めた。
※週刊ポスト2022年1月14・21日号