彼女たちの目的がマルチ商法などへの勧誘だったと筆者が伝えたばかりに、勘違いでも幸せな気持ちが失われたことが惜しそうな中村さん。実は、この2人の女性がマルチ商法の類いへの勧誘役であることは、筆者の思い込みではなく事前に情報を収集して確認していたことだ。それは、彼女たちからしつこく勧誘を受けているという都内の私大3年生・佐々木隼人さん(仮名・20代)からもたらされたものであった。
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話はコロナ禍直前に遡る。
勧誘役である2人の女性を仮にX子、Y子としよう。佐々木さんも中村さんと同様、東京・豊島区内の駅前広場で人と待ち合わせをしていたところ、彼女たちに声をかけられたのだ。
「美味しいお店が知りたい、と言われて教えたんです。そうしたら『よかったら一緒に行きませんか?』となって、そりゃ断る人はいないでしょう(笑)。ちょうど、友人が遅刻するとのことで、そのまま知っている居酒屋に行きました。かわいかったし奢ってもいいと思いましたが、絶対に割り勘だ、と言われてさらにいい子だなって思っちゃって」(佐々木さん)
間も無く、遅れていた佐々木さんの友人も合流。4人で飲み直そうということになったのだが……。
「2軒目は、Y子が知っているバーに行こうとなったのですが、店がなぜか港区。3千円以上かかるタクシー代も彼女たちが出すと言い始めて何かおかしいなとは思ったんです。とりあえず移動して店の前に着いたのですが、繁華街ではなく一軒家風。『そういうコンセプトのバー』と言われ、一応納得して入ったんですよ」(佐々木さん)
一般的な民家風の玄関を入ると、そこにはスニーカーや革靴、女性用のパンプスなど十数足が脱ぎ散らかされていた。部屋の奥からは大勢の声の話し声や笑い声が聞こえ、かなり楽しそうな雰囲気ではあったという。
「部屋に入るなり、おおー! という感じで迎えられ、なぜか握手を求められました(笑)。誰かが、X子とY子の知り合いだから、と話していて、缶ビールや缶チューハイを勧められました。バーじゃないよね、とX子に耳打ちしても、いいからいいからと流されてしまって、いったい何をする場所なのか分からないままです」(佐々木さん)
そして、一時間ほど歓談が続いたところで、事態はおかしな方向へ向かっていったのだった。まず、佐々木さんに握手を求めてきたリーダー風の男性が「それでは」というと、部屋が一斉に静まり返った。そして、ほとんど喋らず、場にいたことすら思い出せないほど存在感の薄かった若い男性が立ち上がり、急に「私の夢は」と言い出したのである。
「私はナントカと出会って人生が楽しくなった、これからも頑張ります、的なことを言いだしました。なんなんだと思っていたら、リーダー風の男が、あなたたちも仲間だ、みんなで勝ち組になろう、と肩を組んできました。存在感ゼロの男も馴れ馴れしく『佐々木くん、一緒にやろう』なんて言ってきた」(佐々木さん)