1968年05月17日、進水する日本初のコンテナ専用船「箱根丸」。兵庫・神戸市の三菱重工神戸造船所(時事通信フォト)
メリットが無ければ取り引きの少ない日本の港になんか寄らない。ただでさえ貴重なコンテナがもったいない。面倒で安い荷主のために寄るくらいなら空コンテナのままアメリカなり、中国に引き返したほうが面倒はないし金になる。いまや日本航路は現場や個々の事情にもよるが、おおよそその程度の扱いでしかない。海運こそ生命線なのに。何度でも書くが貿易は戦争であり、港もまた戦場なのだ。
「マクドナルドに限った話ではありませんがね、あれだけの巨大企業でもうまく回せないのが(現代の)コンテナ物流です。まして日本向け、当分ポテトはSのままですね」
筆者が聞きたかったマクドナルトの話を絡めてくれたが、2021年末のポテト(M・L)休止騒動も冷めやらぬ中、再びフライドポテトは約2900店舗でSサイズのみ提供に追い込まれた。この取材の直後、短期間とはいえハッシュポテトも休止だという。カナダの水害による港の混乱に人手不足とコンテナ不足でまともに船が出られない。コンテナ船があってもコンテナが足りない上に港湾作業員もコロナと人手不足による他業種との奪い合いで足りなくなっている。空輸で一時的にしのいだが、あくまで限定的な処置、長期化するとなれば今回のように一ヶ月の休止(予定)もやむを得ないということか。
「マックとは別の話ですが、コンテナ船が港に入れないで一週間も洋上待機とかあります」
マクドナルドに限らず輸入関連はみな輸送費の高騰と混乱、それによるコンテナの「取り負け」に苦戦している。サントリーもまたワインの一部ブランドの販売休止を決め、その理由を明確に「コンテナ不足」による輸入ストップだと認めた。輸入関連の部品や小物も昨年から物にもよるが入ってこない事態に陥っている。まだ特定分野ごとの話になっているが、食料のみならず半導体や燃料、飼料といった広範囲に影響を与える輸入品の場合は限定的では済まなくなる。そしてあらゆる商材はいずれ輸送価格、他国に買い勝ちするためにさらなる価格の高騰は避けられない。結局のところ、過度の「安さ」は世界的にも曲がり角に来ているということだ。日本の「激安」はいまや社会悪と言ってもいい。
コンテナ、この何の変哲もない箱、しかしこの箱の一つ一つが私たちの生活を、命を支えている、まさに命の箱だ。そしてこの命の箱を日本は取り負けている。殺風景なこの貨物港、これもまた私たちの運命を握っている。中国や韓国が国策で大型港、ハブ港を整備している間にこの国は何をしてきたのか――いや、何かはしてきたはずだ。それは知っている。しかし現実は残酷だ。
脆弱な港湾政策、コンテナ船にスルーされる日本の港もまた、買い負け、取り負けの要因であり、いままさに食の安全保障の危機をはらんでいる。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)ジャーナリスト、著述家、俳人。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題や生命倫理の他、日本のロジスティクスに関するルポルタージュも手掛ける。