素材としての「血」を撮る
【雪の中の決闘シーンをはじめ、本作の血しぶきは時代劇史上でも屈指の美しさであった。それはVFX、つまりデジタル合成によって創られたものである。が、その血の動きには、明らかにデジタルとは異なる生々しさがあった】
白石:人斬りの話ですから、大友監督としては全体的に血の量を増やして、血の表現によって剣心の怖さを見せたいというのが前提としてありました。僕らCGのチームがそれを汲み取って、細かくこだわりながら作っていきました。
――特にこだわったのは、どのような点になりますか。
白石:3DのCGでゼロから作るのではなく、本編の撮影が終わった後で「血の素材」を撮らせてもらったんです。
――「血の素材」とは?
白石:血液素材みたいなものを空気圧縮して、コンプレッサーで出すわけです。それをグリーンバックで何パターンも撮って、それを後からシーンに合わせました。本編の撮影を撮り終えた段階で「こういうところに血を足したい」というイメージは僕の中にできていたので、特にキーになるショットに関してはカットに角度を合わせて撮っています。
――そうなると、コンプレッサーを使った血の出し方にも指示を?
白石:とりあえず出せばいいのではなく、風情も大事になりますからね。量、強さ、噴き出し方、全て計算しました。それに、長く出過ぎてもリアルではありません。
――その血の出方、美しさとリアルさのバランスが見事でした。意識されたポイントはありますか?
白石:人斬りである剣心の強さとスピード感ですね。
今回はワンカットに対して最低でも三素材から四素材を撮っています。広がって飛んでいく血もあれば、シュパッと素早く細かく消えていく血もあります。そうした素材を剣心の動きに合わせて組み合わせていったんです。単純じゃない血の出方といいますか、動きのスピード感に合った出方を追求していったので、それが結果として、いいバランスになったんだと思うんです。
――個々の血の量も的確だったように思えます。
白石:血が出過ぎて笑われてしまうことは絶対に避けなくてはなりませんでした。そのバランスは細かく追求しています。ただ、剣心のアクションがとにかくカッコよかったので、その動きに合わせていけば変なことにはならないという安心感もありましたね。
◆聞き手・文/春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家
【プロフィール】
白石哲也(しらいし・てつや)/株式会社Spade&Co.VFXディレクター。映画・テレビドラマのVFXを担当。代表作は『るろうに剣心』シリーズほか、『マスカレード・ホテル』『孤狼の血』『全裸監督』ほか多数。
※週刊ポスト2022年2月4日号