国際情報

【対談・中国経済、成長か崩壊か】「TPPで中国に足かせをはめる」の選択肢

日本は中国とどう付き合っていくのがよいか(写真=中国通信/時事)

日本は中国とどう付き合っていくのがよいか(写真=中国通信/時事)

 習近平国家主席の強権体制による中国の膨張に、世界が固唾を呑んでいる。北京五輪を終えた中国経済はどこかで破裂するのではないか──。外交ジャーナリストの手嶋龍一氏と中国問題を専門とする拓殖大学教授の富坂聰氏が超大国の行方を読み解いた。【前後編の後編】

手嶋:日本は富の半ばを自動車で稼ぎ出している一方で、日本の若年層は自動車に興味がなく、お金に余裕がなくて車を買えない。これでは海外の市場に頼るしかなく、内需だけではやっていけない。しかし、中国は土地や資源も含めてかなりの潜在能力を備えている。内需を経済のけん引力にする可能性を残している。

 日本のメディアは恒大集団の破綻を大きく報じ、他人の不幸を喜んで、中国経済の崩壊の予兆と見下す風がある。だがその本質を分かっていない。

富坂:恒大集団の破綻は、本業が原因ではなく、電気自動車への過剰投資が焦げついたためで、区別して考える必要がある。

手嶋:米中貿易戦争で、世界のサプライチェーンにいま重大な地殻変動が起きている。欧米はファーウェイの通信機器を排除した。半導体と基板の供給は、中国と非中国の真っ二つに分断されつつある。欧米諸国は、台湾の半導体メーカーを味方に引き入れて優位に立っているかに見えるが、長期の勝負に決着がついた訳ではないと思う。

富坂:短期的には中国にとってダメージになっても、リカバリーするでしょう。コロナ流行の初期に、マスクの製造を外に依存するのは問題があると国内製造に切り替えようとしたが、戻ってきませんでした。逆に、中国の“世界の工場”としての凄さが見えてしまった。

手嶋:コロナ禍では、多くの日本人が中国製のマスクをしています。

富坂:GDPを牽引するのは個人消費で、アメリカで約70%、日本で約60%を占めますが、この個人消費を支えているのが“安い商品”で、今やほとんどが中国製。メイド・イン・チャイナを排除してしまうと、経済が成り立たないのです。

手嶋:アメリカでは、メイド・イン・USAの製品を探すのは、砂浜でヘアピンを見つけるほど難しいといわれている。

富坂:だから、サプライチェーンを寸断すると、ダメージがブーメランのように返ってくる。中国の貿易体制からは、実は多くの国が恩恵を受けています。たとえば、スマートフォンなどは中国が付けている付加価値は4%程度に過ぎない。金額に置き換えると、仮にアメリカで100円で売ったとして中国に入るのは4円だけで、残りの96円はデザイン料や設計料などでアメリカや日本、韓国、台湾、タイ、マレーシアなどに入る。中国で組み立てているだけで、実はみんなが儲けている。

手嶋:アメリカは最新の貿易統計で史上最大の赤字となった。安価な製品では、世界は中国製品に依然として依存している。これでデカップリング(米中切り離し)をすると、中国が有利にさえなりかねない。

富坂:十分あり得ます。

関連キーワード

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン