AIは神様から、ティンカー・ベルのような存在へ
「AIのべりすと」を開発する過程で、Staさんには気づいたことがあった。
「人間は、AIに、あまり押し付けられたくないんです。ある程度は期待通りになりつつも、ちょっと期待を外してくれると気持ちいと感じる。これを踏まえて『AIのべりすと』には、日本で初めて、MOD(モッド)という、AIを細かく調整できるアダプタ機能を付けました。これによって、自分の好みに合わせつつ、少しだけ期待を外していく文章が出力されやすくなりました」
あるベテラン編集者はヒット小説を生む秘訣として、「読者の期待には添え、予想は裏切れ」と言った。これは「AIのべりすと」が実現しようとしていることに重なる。クリエイティブなAIに求められているのは、人間一人ひとりに適合した、自分だけのAIだとStaさんは言う。
「適切な日本語訳が見当たらないのですが、“one-size-fits-all”のAI、言わば、すごく巨大なAIを用意して、これが最高スペックだから使いなさいというのは、人間にAIのエゴを押し付けることになってしまう。こうしたAIが役立つ分野もありますが、面白いとか、気持ちいいとか、主観によって評価される分野は、使う人が自分に合わせてカスタマイズできる作りにする必要があります。
これからは、データセンターに座っている神様みたいなAIよりも、小さな卓上に宿るティンカー・ベルみたいなAIを目指していくべきなのではないかと思っています。AIは人間の創造力を刺激し、大変な時に付き合ってくれる、そんな友達のような存在になっていくはずです」
『ピーター・パン』に登場するティンカー・ベルは、モノを作る才能を持ち、大好きなピーター・パンを守るためにいつも彼のそばにいる愛らしい妖精だ。こんなAIがいてくれたら、この取材記事だって、もっと速くもっと良いものが書けたに違いない。