3人の親の子供たちは、親の指導によって普段からマスクの着用を「禁止」されていた。登下校時、授業中、そして部活の間も、他のほとんどの生徒がマスクを着用して過ごす中、その子供たちだけはノーマスク。最もかわいそうだったのは、その子供たち本人だったと水野さんは話す。
「子供たちも『ノーマスク』に違和感を持っているようでしたが、親の言いつけを守っていたんです。もちろんクラス内、学年、学校中ですぐに噂になり、すごく気まずそうに生活していたそうです。卒業式でも、大騒ぎする親を見て顔を真っ赤にしていた。先生たちもどうすることもできなかったのでしょうが、何とかできる方法はなかったのかと悔やまれます」(水野さん)
結局3人の親たちは体育館内に入ることはできなかったようだが、卒業式はなんとか終了。せっかくの子供の晴れ舞台は、後味の悪さだけが残ったという。
我が子に「ノーマスク」を強要する親は、数は多くないものの一定程度存在する。悪目立ちするものだから、あっという間に地域中の噂の的になる。そう話すのは千葉県内の小学校教頭・伊東孝紀さん(仮名・50代)だ。
「保護者の意向でマスクをつけないという生徒さんは、我が校にも数名います。理由は、マスクを着用していると息がしづらく成長が阻害される、というもの。確かに、言い分としては一理あると思うのですが、マスクの着用はそもそも、自分のためというよりは周りにうつさないため。そう諭しても、なかなか聞き入れてもらえない」(伊東さん)
近隣の学校でも同様の問題が起きているようで、中には「ノーマスク」推進派の親が、学校の校門で「マスク着用がいかに危険か」と書かれたビラを生徒に配布する事例もあったというから、事態は深刻だ。
「近くの学校では、親からマスク着用を禁止された生徒さんに、担任がマスクをこっそり手渡し着用させていたそうです。マスクをしていないことに引け目を感じていた生徒さんは安心していたようですが、それが親御さんの耳に入り、ものすごい剣幕で学校に乗り込んできたそうです」(伊東さん)
こうしたやりとりを見た他の生徒たちは、当然大きな違和感を覚えることになり、その好奇の視線は「ノーマスク」生徒に対するいじり、そしていじめに繋がっていくこともあるという。
「あいつの親はヤバい、それを聞き入れている子供もおかしい、と考える生徒が増え、マスク未着用の生徒さんはコミュニティから排除される。まさにいじめが起きています。息がしづらかったり、健康上の問題がある場合はマスクを外しても良い、という指導をしていますが、マスクなしはおかしい、という感覚を、大部分の生徒たちが抱いているんです。教師としても、どう対応していいのか困惑し続けているというのが現状です」(伊東さん)
子供たち、特に乳幼児のマスクは危険という専門家の指摘は確かにある。運動中でもマスク着用が義務とされ、それが原因で、子供が体調を崩すという事例があったという報告もある。もちろん議論はされるべきだし、一方的な決めつけや強制があってはならない。一方、それと同じように、絶対にマスクをするなという強要もおかしなことのはずだ。
コロナ禍で様々なところで「分断」が発生していると言われる。大人たちが自身の責任において判断し、行動することは、それが違法行為でない限り、第三者がとやかくいう権利はないのかもしれない。しかし、そんな大人たちの事情に付き合わされ、板挟みに遭い、疲弊し、不幸になっていくのは子供たちだけ、という事実からは絶対に目を背けてはいけない。