“三谷組”初参加で学ぶことがあまりにも多かったという。
「たぶん大ありでした(笑い)。クランクインの日、スタジオの駐車場に着いて車を降りようとした時、どこかふわついてる感じがして。このまま行くのはよくないなって思いなぜか、習っているキックボクシングの先生マイク・ジョーさん(第4代Bigbangスーパー・ウェルター級王者)に電話して、『ジョーさん、今自分こういう状況でフワついた感じで、もしかしたら怯んでるっぽいんですけど、どうしたらいいっすか?』って意味不明のヘルプを出したんですよ(笑い)。朝っぱからからいきなりそんなことを言われたジョーさんも、びっくりしたと思いますけど(笑い)」
その時のマイク・ジョーさんのアドバイスはごくシンプル。
「『町田さん、チャイスーですよ』って言われたんです。ムエタイの基本ともいわれる言葉で、 “折れない心、己に克つ”という意味。その言葉で、そうだ、これは自分との闘いなんだ、と気づくことができました」
そのようにして迎えたクランクインだが、“三谷組”の役者は驚くほど人間性の大きい人ばかりだったという。だれもが構えずリラックスして演技に取り組んでいるように見えるが、馴れあいの雰囲気は皆無。そして役に対するアプローチは貪欲そのもので、誰もが譲れないものを持っている。
「なんて言うか、プロフェッショナルの現場はゾクゾクしますね(笑い)」
演技面でも影響を受けたのか、と問いかけたところ、即座に否定された。
「どうセリフを言うかとか、どう動くかとか、そういうことを超越した方ばかりなんです。生き方の積み重ねが演技ににじみ出ているような・・・・・。カメラの前じゃないところでたわいもない雑談をしているだけでも、そこに夢やロマンが感じられるというか。
控室で小栗さんとほんとうに普通の世間話をしているだけなんですが、パワーをもらって気持ちが高揚するんです。話し終わった後に、毎回思わずウォー!と叫びたくなるくらい。それでいて包み込まれるような包容力もあって・・・・・・、一言で言うと、むちゃくちゃカッコいい(笑い)。漠然としてるんですが、生き様のスケールがあの雰囲気に繋がるんだろうなあ」
「自分をどこまでスケールアップできるか」を追求したい
そんな俳優たちの姿に触れて、役者であると同時にどう日々を積み重ねていくかが大事になると感じたという。
「経験上、心穏やかな状態の時ほど、勝負事は上手くいくんですよね」
今後、どんな役を演じてみたいか尋ねると、
「どんな役でも、『町田にこの役をやらせてみたい』と思ってくださった方の期待以上のものを出したい。映画作品としては、個人的には韓国映画のバイオレンスものが好きなんです。何か独特のトーン、色味にすごく惹かれます。時代劇は所作やたたずまい、殺陣を追求することで、役の説得力に繋がる。それを日頃から磨いていきたい。そして、そうですね、モンゴルとか、日本じゃない国での時代劇にも取り組んでみたいです」
かつて、シンガポールへの転勤辞令で職を辞したほど「環境の変化が苦手」だった彼が、今では貪欲に変化を求めている。
「本当にブレブレですよね(笑い)。自分をこれからいかにして大きくしていけるか、どこまで大きくできるか。それを追求していきたいです」
眼光鋭いのに驚くほど腰が低く、まさに武士のような佇まいの町田。第14回(4月10日放送)以降の出演シーンにも期待が高まる。
(c)NHK 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』日曜日=地上波・午後8時、BS・午後6時(再放送 土曜日=地上波・午後1時05分)。三谷幸喜が贈る予測不能エンターテインメント! 平家隆盛の世、北条義時(小栗旬)は伊豆の弱小豪族の次男坊に過ぎなかった。だが流罪人・源頼朝(大泉洋)と姉・政子(小池栄子)の結婚をきっかけに、運命の歯車は周り始める。写真は義仲と兼平。
【プロフィール】町田悠宇(まちだ・ゆう)1988年8月9日生まれ、福岡県出身。身長184cm。モデル・俳優。福岡の演劇チーム・TEAM LOCOを立ち上げ、映画『めんたいぴりり』や『ロックンロール・ストリップ』、舞台『投げられやすい石』などに出演。NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)、『鎌倉殿の13人』(2022年)に出演。
取材・文/桑原恵美子、撮影/横田紋子、スタイリスト/上野健太郎、ヘアメイク/山口朋子