「びっくりしましたが、まあいっかと思って」、スカウト業に懸命に取り組んだことが、結果的に俳優としての基盤を作ることになる。彼がスカウトした男性モデルに仕事がないことに責任を感じ、演劇ユニット「TEAM LOCO(チームロコ)」を結成することになったのだ。とはいえ、
「僕をはじめ、演劇経験どころかろくにお芝居を見たこともないメンバーばかり。『演劇ってどこでやればいいんや?』というところから始めました(笑い)」
お客を集めるためにワンドリンク付きにしてライブハウスで公演したこともある。お芝居の最中でも平気で席をたってドリンクバーへ行く会場のお客たち。コップに氷を入れる音でセリフが消されてしまう、なんてこともあった。
後に町田が出演する映画『ロックンロール・ストリップ』(2020年公開、監督/木下半太)は、ストリップ劇場でコントをする売れない劇団員たちの姿を描いた物語。
「まさにあの映画の中の世界です。僕が同じ苦労を経験していたから、あの役をもらえたんだと思います」。
試行錯誤を繰り返しながら公演を重ねるごとに、地元では知られる存在となった。NHK福岡のテレビドラマや地元のCMなどにも出演するようになったが、彼の中では誰かに演劇の指導を受けることもなく、自己流のまま突き進んでいることへの不安が高まっていったという。
「このまま福岡で同じことを続けていても、成長も発展もない。芝居をアップデートするために、東京でチャレンジしてみたいという気持ちが抑えきれなくなったんです」。
“大河ショック”で芽生えた「俺は勝つ」という武士のような決意
2020年に入ってすぐ上京すると、そのタイミングでほどなく世の中はコロナ禍に見舞われる。中止や延期になってしまった仕事もあった。そんな中、2020年11月に東京芸術劇場 シアターイーストで上演された舞台『投げられやすい石』に出演。それを観たNHKのプロデューサーが声をかけてくれたことから、大河ドラマの出演につながったのだ。
役者にとっては夢のような状況だが、その栄光に酔う余裕は全くなかった。
「それまでやってきた世界とは、撮影のスケールが違い過ぎて…・・・。すべてが初めての初めてで、それまで味わったことのないいろんな感情が湧き起こりました」
その中で彼を支えたのが、「俺は負けない!」「不必要な感情は捨てる」という決意だった。その気概が、江戸末期に侍としてフランスに渡り、西洋のカルチャーショックを浴びつつも侍としての誇りを見失うまいとした水戸藩士・菊池平八郎と重なり、あの気迫の演技につながったのかもしれない。
また町田はこの作品に出演したことで、第一線で活躍している役者の演技の“凄み”を知ることができたとも語る。
「『青天を衝け』の撮影で一番印象に残っているのは、吉沢亮さんと見つめ合ったシーンです。彼の目力がとにかく凄くて、彼の芝居のパワーに引っ張られるように、僕の中の感情も大きく動いたんです。大河ドラマの主演が背負っているものを突き付けられたような体験でした」
“三谷組”初参加のプレッシャーにスタジオ前で怯んでしまったクランクイン
無我夢中で取り組んで見事に演じきった初・大河ドラマだったが、『鎌倉殿の13人』は“三谷組”と呼ばれるトップの常連俳優たちが勢揃い。その中にいきなり放り込まれることに、プレッシャーはなかったのか。