集団埋葬地の前で行方不明の親族を思い涙を流す家族(共同通信社)

集団埋葬地の前で行方不明の親族を思い、抱き合って涙を流すウクライナ人家族(共同通信社)

ヨーロッパの外国人クラブで横行したトップレスと売春

「働くなら日本に行きたかった。キエフでオーディションがあると知人に聞いて応募しました。当時は百貨店で働いていたけど、給料は1か月5000円。あまりに安かったから」とMさんは言う。横で聞いていたA氏が口を挟んだ。

「あの頃、キエフに百貨店なんてあったっけ?」

「百貨店というより小さなデパートだね。あの頃のキエフでは、あれがデパートなの」(Mさん)

 2人のやり取りを聞いていると、当時のキエフのデパートは日本でイメージするものとはかなり違ったらしい。レストランもあったが、行けるのは金持ちだけ。日本のように誰でも気軽に行けるようなレストランはなかったという。

「日本に行きたかったのは、お金が稼げるだけでなく、トップレスをやらなくても良かったから。ヨーロッパに行くにはトップレスが必要になるけど、トップレスは100%売春になる。イタリア、チェコ、マケドニア…どこも全部、売春しないと働けなかった。店の裏や2階に部屋があって、夜は必ず…」

 Mさんはそう話し、顔を歪めた。ヨーロッパに働きに行き、戻ってきた友達から色々と聞いたのだという。A氏も続ける。

「ヨーロッパのプロモーターはトップレスで踊る子を募集しながら、売春できる子を探していました。だから娘がオーディションに行くと聞けば、親が心配してついてきたんです。彼らは『日本は安全な国』という印象はあるが、売春しなくていいと聞いても、本当は違うのではないか、娘は騙されるのではないかと疑っていましたから」

 日本ではトップレスは上半身裸で踊ることを言うが、ヨーロッパでは売春込みを意味したのだ。興行ビザでの入国は、日本なら在留期間は3か月だがヨーロッパだと8か月になる。

「ヨーロッパでの売春は時間単位。客がシャンパン半分をオーダーすれば30分、1本なら60分。一度行ってしまえば、8か月間毎晩のように我慢するしかないんです。友達は『我慢して稼ぐしかない』と泣いていました。売春がないのは日本だけでした。

 ただ、日本だと1か月の給料はトップレスで800ドル、トップレスなしで500~600ドルほど。お客さんからのチップなどを含めても、最初のうちは稼げるのが月に1000ドルぐらいで、そこから家賃や食費、洋服代を引くと多くは残りません。ヨーロッパならもっと稼げるけれど、行ってしまえば売春できないとは言えない。それは通じないのです」(Mさん)

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