そしてもうひとつがロシアの核兵器使用だろう。
ロシアの核使用基準は2つの公式文書で明らかにされている。2014年版の軍事ドクトリンと2020年の「核抑止政策の基礎」だが、共通するのが“核で攻撃されたら核で反撃する”とあること、そして通常兵器による攻撃でもロシアの国家安全保障が危機に晒された場合は先に核を使うと記している。
核兵器を使った場合の西側諸国の反応はプーチン氏にも大きなリスクであり、簡単に使用するとは考えにくい。ただし、東部のドンバス地方での大規模戦闘でロシア軍が負けることがあれば、核使用の可能性は否定できない。単純に戦況をひっくり返すために使うというより、ウクライナが西側陣営の一翼に組み込まれることを阻止したいという考えが読み取れる。
4月27日にプーチン氏は、西側のウクライナ支援について「我々にとって受け入れがたい戦略的脅威」と発言。核使用の示唆だと受け止められた。では、具体的に「戦略的脅威」とは何を指すのか。ロシア西部のベルゴロドやブリャンスクの軍事施設をウクライナ軍が攻撃したと報じられているが、そうしたことが「戦略的脅威だ」とプーチン氏が言い出した時、事態の推移は予断を許さない。(談)
【プロフィール】
小泉悠(こいずみ・ゆう)/1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了。外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員などを経て現職。
※週刊ポスト2022年5月20日号