職場は友達を作る場所ではない
この時期に限らず、会社員生活における問題の多くが人間関係によるものだ。私も約10年間ではあるが経験はあり、様々なジレンマを感じたことがある。拙著『45cmの距離感 -つながる機能が増えた世の中の人間関係について-』は、タイトルの通り、人間同士の距離感をテーマにした一冊だ。私がこれまでに重ねてきた失敗と、そこから得た考えや意見を綴っている。
本書のなかでは、職場での距離感を綴った〈職場は仲良し倶楽部にあらず〉というパートが五月病問題を考える糸口になるかもしれない。たしかに皆、必要以上に会社という枠組みの中で「仲良くしなきゃ」と思いがちではある。新卒入社なら会社は学校生活の延長線にあるようなものだし、友達100人できるかという強迫観念に近いなかにいるのではないか。
でも会社は生活費を稼ぐ場所だ。個性も突出するし、無条件に調和が取れるわけがない。それでも仲良くなりたかったら、退社後、同僚や上司・部下という関係性を抜けてからにしたほうがいいというのが、私の会社における人間関係の解釈である。仮に定年まで勤務するとしても、人生100年とすれば40年近くも友人でいられるから、職場ではあえて仲良くする必要はないはずだ。
……と、こんなことを推奨するのは私だけだろうと思っていたら、ふと、黒川伊保子さんのことを思い出した。『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』など『トリセツ』シリーズのベストセラー作家であり、人工知能の研究者である黒川さん。上記の拙著でも、距離感についての黒川さんとの対談を収録させていただいた。彼女ならこの五月病について、どんな見解を示すのだろうか? 黒川さんに改めて話を聞くことにした。
「私もね、職場は友情を育む場所ではないと思っています。皆『こういう自分にならなくちゃ』『嫌われないようにしないと』と、少し過敏になりすぎでは? と色々な話を聞いていて感じますね。雇用形態は問いませんが、特に若い人は自分の興味や好奇心で仕事をすることを念頭に置けば、五月病も少しは緩和するのではないでしょうか」(黒川さん、以下同)