しかし、プーチン政権が窮地に陥り、状況が一変する可能性がある。今後、プーチン政権が崩壊すればロシア各地で分離独立運動が激しくなり、ロシア連邦は多数の国家に分割されるだろう。
そうなった時、北方領土に住む約2万人のロシア人島民は食料品などの生活必需品の調達もままならず、孤立状態に陥ることが予想される。その後は日本に支援を求めてくる可能性が極めて高い。
日本が人道支援名目で北方領土に介入すれば、ロシア人島民は日本の支援なしで生活できなくなる。“ロシア離れ”が進んだ島民たちによる住民投票で独立宣言がなされれば、あとは独立した北方領土を日本が受け入れるかたちで返還が実現──これが、私の考えるシナリオだ。
経済制裁の影響ですでに北方領土に住むロシア人の生活が破綻寸前であり、この返還シナリオは決して机上の空論ではないだろう。(談)
【プロフィール】
中村逸郎(なかむら・いつろう)/1956年生まれ。学習院大学大学院政治学研究科博士課程単位取得退学。モスクワ国立大、ソ連科学アカデミーに留学。ロシア研究のエキスパート。
※週刊ポスト2022年5月20日号