国内

【ルポ後編】ドヤ街の感染対策 山谷を支える「善意」と「家族ごっこ」

ドヤ街の実情を末並俊司氏がレポート

ドヤ街の実情を末並俊司氏がレポート

 東京都の台東区と荒川区にまたがる山谷地区は、大阪の釜ヶ崎、横浜寿町と並ぶ日本三大寄せ場のひとつだ。この地に多く建つドヤ(簡易宿所)には、新型コロナの防疫上、様々な困難が集中していた。この街を10年以上取材し、新著『マイホーム山谷』を上梓した介護ジャーナリスト・末並俊司氏がレポートする。【前後編の後編。前編を読む

 * * *
 感染拡大の阻止はドヤの努力だけではどうにもならない。ホテル白根にも出入りする訪問看護ステーション・コスモスの代表、山下眞実子さんが語る。

「ドヤでひとりぼっちで暮らしている高齢者のなかには、PCR検査の手続きができない人がけっこういます。私たち訪看(訪問看護師)が手続きを代行して、付き添いのヘルパーさんを手配することもよくあります。本来ならご家族の方がやったりするんだろうけど、山谷には天涯孤独の人も多いからね」

 ワクチンの接種券も路上生活者の元には届かない。山谷で活動する労働組合が自治体と交渉し、組合の事務所に接種券を送付する形でワクチン接種を可能にしたケースもあった。

 かつての日雇い労働者は山谷の路上やドヤで年を取った。今では医療や介護を必要とする人が大半だ。貧困の問題も大きい。こうした人たちを救うため、山谷の街ではコロナ以前から、訪問看護ステーション・コスモスのようなNPOや労働組合などの支援団体が多く活動しているのだ。

 ホテル白根の奮闘もコロナ禍に限ったものではない。宿泊客のなかには、金銭管理ができず、生活保護費を受け取った先から使い果たしてしまう人もいる。そうした客のために、本人の同意の上で帳場で保護費を預かり、毎日必要な分だけ渡すシステムを導入している。認知症の症状で服薬管理ができない客には、帳場で薬を預かり、決まった時間に声掛けして薬を飲ませることまでやる。

 ホテル白根はあくまでも簡易宿所だ。医療機関でも介護施設でもない。本来ここまでする必要はないし、このような手厚いサービスを行なったところで、売り上げは変わらない。

 山谷を取材していると、豊田さんのように仕事の枠を超えて生活困窮者に寄り添おうとする人たちに多く出会う。先に紹介した訪問看護ステーションの山下さんもそのひとりだ。

 こうした仕事の枠を超えて寄り添う姿に最も近い言葉は「善意」なのだろう。山谷の福祉を支えているのは、ここに集まる人たちの善意だ。理想的な姿にも思えるが、これを他の地域に強いることはできないし、強いるべきではない。

関連記事

トピックス

左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン