見事800人のなかから主演に抜擢されたが、この時点では萌音の演技力は未知数だったという。
「正直、芝居は苦労するだろうと思っていました。ところがいざ撮影を始めると、すんなりできてしまうから驚きです。彼女は現場に来る時にはセリフを完璧に入れている。まさに準備万端で、一発OKしたテイクのほうが多かったくらいです。
ただ言われたままに動くのではなく、自分で考えて芝居をしてくれた。ベテラン俳優との演技でもきちんと反応して芝居をするし、本当に素晴らしかった。僕が現場で苦労することはほとんどありませんでした」(周防氏)
撮影現場には両親が顔を出すこともあったが、その時、周防監督は萌音の父親に詫びたという。
「当時はお母さんと萌音さん、萌歌さんが3人で東京で暮らしていて、お父さんは鹿児島に単身で残っていました。だから僕はお父さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。だって、まだ高校生で、普通なら一緒に暮らせる年代なのに、この映画に出ることになったばかりに離れ離れになっちゃって……。それで謝ったんだけど、お父さんは楽しそうにされていたので、良かったなぁと感じたのを覚えています」
(第4回に続く)
※週刊ポスト2022年6月10・17日号