『鎌倉殿の13人』も含め、多くの映像作品で馬術指導を担当してきたラングラーランチの田中光法氏
──撮影現場への慣れもまた必要になってきますよね。
田中:最初はエキストラの馬として少しずつ現場での経験を積ませて、「これはいけるな」という馬を役馬にしています。
──そこも人間の俳優と同じようなシステムなんですね。
田中:どの馬でも役馬になれるわけではありません。撮影では、「いろんなことができる」脳力が重要です。
競技馬を育てるほうが簡単です。その競技だけを教えていればいいので。でも、撮影の場合は、乗馬の素人に近い方を乗せて走ったり、カメラを飛び越えたり、あらゆることをやるわけです。だから、とにかく様々に対応できる馬に育てておかなければいけない。
いざ調教するときですが、たとえば馬に「止まりなさい」という動きを教えていくときに、答えは一つなんです。「止まる」という答え。でも、数学と似ていて、答えは一つなんだけど、公式がいっぱいある、という感じです。
──答えは同じでも、そこに向かう道筋は馬ごとに違う、と。
田中:はい。全部の馬が同じ調教で同じようには育たないんです。ですから、「こいつは何で、今、これをやりたがらないんだろう」など、常に考えながら乗っています。相手を考えながらそれに合わせた調教をしていく。長い時間をかけて育てているので、通常の乗馬クラブに比べたら、営業的にはあまりよろしくないんじゃないですかね。
【プロフィール】
田中光法(たなか・みつのり)/1967年生まれ、東京都出身。ラングラーランチ代表。4歳のときに家族で山梨県小淵沢に移住。NHK大河ドラマ『葵 徳川三代』『武田信玄』『真田丸』や現在放送中の『鎌倉殿の13人』まで数々の映像作品で馬術指導を担当。
【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2022年6月10・17日号