狙うのは幹部の命
当事者たちはどう考えているのか?
旧知の指定暴力団幹部に2つの事件に関する見解を質問した。
「(織田代表宅へ)車が突っ込んだのはともかく、井上組長宅への発砲は道具(拳銃)を使っている以上、誰かが命を落とす可能性はあった。六代目山口組内に事件容認の空気があるはず。それでもがっちりガードされると、なかなか必殺の仕事は実行出来ない。殺せないからガラス割りなのか、最後通告の趣旨だったのかは分からない。手榴弾を持って自爆テロでもすれば殺しも可能だろうが、ヤクザには親と子の建前がある。殺してこいと命令できても、死んでこいとは言えない。これが抗争の最終ラインだろう」
暴力団は上層部の逮捕を回避するため、直接の指示を仰がず、傘下団体が勝手に抗争事件を起こす建前を崩さない。しかし実際は上層部が黙認しており、その心情を忖度して若い衆が走る。子分たちは暴力事件の実行犯を担って体を懸ける(※襲撃して逃亡、もしくは服役すること。反撃を受け、負傷や命を落とすことの2つのケースを指す)が、親分は教唆での逮捕を覚悟し、腹を括れるかで我が身を懸ける。組織が武闘派たり得るかどうかは、ひとえに上層部の胆力に依存する。
これまでの経緯を考えれば、六代目山口組が抗争を終結させようと意図し、事件を頻発させているのは間違いない。なかでも弘道会は暴力事件を積み重ね、神戸山口組にプレッシャーをかけ続けている。が、もう丸7年間、身内同士の対立を続けている。これ以上威嚇のような警告を続けても、神戸山口組を追い込めないだろう。今後、抗争が激化する可能性は十分にある。幹部の命を狙った銃撃事件が立て続けに起きてもおかしくはない。
鍵を握る井上組長の決断
実際、山口組の分裂抗争は最終局面に突入したようである。六代目山口組・司忍組長との親子盃を反故にして離脱、神戸山口組を結成した面々にとっては正念場だ。なにしろ六代目山口組は、井上組長宅への銃撃をはじめ、引退した組長たちをのぞき、分裂の首謀者すべてに暴力を行使している。
抗争事件は相手を殺し、その仕返しに報復が実行され、暴力的衝突が連鎖する状態を指す。しかし現実的には六代目山口組ばかり事件を起こしており、もう長らく抗争の体をなしていない。あまりに神戸側の報復がないので、六代目側の組員は抗争の渦中にある自覚を持てないだろう。
昨年末、関連施設を相次いで銃撃された神戸山口組の寺岡修若頭(侠友会会長)は、2月、再び六代目側の攻撃を受けた。
5月8日には大阪府豊中市にある宅見組・入江禎組長の自宅に車が突っ込んでいる。2人は神戸山口組の中心メンバーだが、旗揚げ以降、一貫して抗争事件に消極的だ。井上組長を担ぎ上げ、若い衆を巻き込んだ責任があるので、そう簡単に引退はできない。ただし、井上組長が幕引きを決意すれば話は別だ。最後まで組織の行く末を見届ければ、身を引けるだろう。