フォークは川上哲治を打ち取るためのボールだった
若い投手に無理をさせない育成法が主流となりつつあるが、金田氏や杉下氏の頃とは時代が違うということなのか。そう質問すると、杉下氏はこう応じる。
「カネさんの場合は、(登板が多くても)疲労感がない。全身を使って投げているぶん、目いっぱいの力で投げることがないんですよ。佐々木君は肩の力で投げている。それに、ほとんど全員の打者に対して全力投球ですからね。そりゃ疲れる。それなりにお休みしないとまずいよね」
最速164キロのストレートと落差のあるフォークボールを武器とする佐々木だが、元祖フォークボーラーと呼ばれる杉下氏は、「佐々木君のフォークボールはこれからですよ。もっともっとよくなるでしょうね」としたうえで、今後何を意識するといいのかについてこう話す。
「ストレートをどんどん投げることです。あくまでも基本はストレート。フォークの投げ方はストレートと同じです。ストレートを投げているうちに、フォークは自然によくなっていく。フォークを磨こうと思わず、少しでも速いストレートを投げることだろうね。あとは、カーブかな。みんな楽をしようとしているから、カーブではなくスライダーを投げている。カーブは腕全体で捻らないといいボールが投げられないが、ほとんどの選手がカーブの握りで滑らせて投げようとするから、スライダーになる。カーブを投げれば腕の振りがよくなる」
さらに杉下氏は「フォークボールをあまりたくさん投げなくていい」とも言う。
「ボクは“フォークの神様”なんて呼ばれていますが、実は勝負どころでしか使わない大切な切り札の位置づけでした。だから1試合に5~6球しか投げなかった。主に巨人の川上哲治さんを打ち取るために投げていました。ボクのフォークが打者のバットに当たった記憶があるのは1回だけです」
そんな杉下氏は佐々木の課題としてコントロールを挙げた。
「ボクが投球で大切にしていたのはコントロールです。打者の弱点を丁寧につけばスピードがなくても抑えられる。また、アウトコース、インコースは狙ったところを外れる場合も、ストライクゾーンの外側(ボールサイド)にいかないとダメなんです。佐々木君もコントロールは悪くないが、そのあたりがこれからの課題だね」
元祖フォークボーラーも認める佐々木朗希。どこまで進化するのだろうか。