歌舞伎町の東宝ビル横、通称トー横に集まる若者には精神的に不安定な人が少なくない。2021年4月、コロナ感染対策のため帰宅を呼びかける都庁職員(イメージ、EPA=時事)
「大手のホストクラブグループでは、そうした悪質なホストがいない健全営業を謳うところも多いです。でも、今売れっ子のホストたちも、多かれ少なかれ、そうした道を辿ってきた人がいる。最初は1セット5000円など安価な条件でホスト遊びにデビューさせ、もっと可愛くなってほしいと整形を薦めたりして、業界の特殊な価値観に染まらせていく。色(恋愛をちらつかせた営業)はご法度という雰囲気もほぼ無い」(引田さん)
そして最近、若い女性が被害者になる事件が起きると、よく聞かれるようになったのが、被害女性が「ホストにはまっていた」などとする報道だ。引田さんは、ホストにはまったことが女性を危険な生活圏へ誘い込み、被害者にした側面は少なからずあると断言する。
「女性を客というより、金づるとしか見ていないから、その人の境遇が不幸になろうがなんだろうがかまわず、金を作らせるためになんでもやる。そんなあくどいホストも増えました。行き場のない若者が集まる場所としてメディアでも報じられている、歌舞伎町の『トー横』や大阪の『グリ下』、名古屋の『ドン横』には、売れないホストがフラフラしていて、金になりそうな若い女性を物色している。実際、そうした場所で未成年の女の子を捕まえてきてホストクラブで酒を飲ませて借金を作らせ、性風俗店に紹介したりビデオ出演を強要するパターンはある。そういう子たちが巻き込まれる事件は、大なり小なり無数にあるんです」(引田さん)
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、接待を伴う飲食店はどこも経営存続が厳しいと言われる一方、いまも全国の繁華街にはホストクラブの大きな看板が多数あるし、新宿や渋谷、池袋にはホストクラブの看板を乗せたトラックがひっきりなしに走っている。そしてSNSでは、次から次へとホストのアカウントが現れ、若年層に人気のエフェクトやBGMを効果的に使ってアピールする。実際、SNSでちょっとしたインフルエンサー並みのフォロワー数を持つホストもいて、投稿を見たことをきっかけに店の常連になる客も少なくない。
筆者は、中堅から大手とされるホストクラブグループの運営者や広報担当者数人に、実名でこうした問題について語ってくれないかと交渉したが、実現はしなかった。あるホストクラブの広報担当者は「そうした実態は少なからずあるが、全体がそうだと思われかねない」と言葉少なに語るのみだった。
犯罪に巻き込まれた若い女性の背景を探ると、無理をして金を稼いでいて、その理由はホストクラブ通いのため、というエピソードがよく聞かれるようになった。成人年齢が18歳になったことで、危険が及ぶ対象者が広がった可能性も否定はできないはずだ。近ごろの接客の問題に疑問の声を挙げる業界関係者もいるのだが、拡大路線で人の出入りも激しい側にその声は届きづらく、自浄作用が効果を出すとしても時間がかかりそうだ。
もちろん、悪意を隠した優しい態度でちやほやして誘い込み陥れる側が悪いのだが、悪質なビジネスモデルが存在することを知らしめる必要がある。接客の在り方に異議を唱えていかない限り、悪質なホストは存在し続け、被害者も生み出され続けるのだ。