国内

【安倍氏銃撃】橘玲氏 無理ゲー社会の日本で「思想なき凶悪犯罪」は増え続ける

作家・橘玲氏が安倍氏銃撃事件を分析(イメージ)

作家・橘玲氏が安倍氏銃撃事件を分析(イメージ)

 戦後初となる総理大臣経験者の暗殺事件がニッポン社会を大きく揺るがしている。なぜ悲劇が起きたのか、作家で『無理ゲー社会』の著者、橘玲氏が分析する。

 * * *
 政治家が襲われると、戦前の五・一五事件や二・二六事件のように、思想犯によるテロと無条件に考えてしまいがちだ。

 今回の事件を巡っても「戦前への回帰」という指摘が出ているが、これはあり得ない。容疑者が「(安倍元首相の)政治信条に対する恨みではない」と供述しているように、新興宗教団体に家庭を壊されたという個人的な恨みが犯行の動機のようだ。

 これはある意味、現代社会の「リベラル化」の“負の側面”が表われた事件ではないか。ここでのリベラルは、「すべての人が自分らしく生きられる社会を目指すべきだ」という価値観のことを指す。

 もちろん理想としては素晴らしいが、誰もが「自分らしさ」を追求すれば、イエやムラなど共同体の拘束から解放される一方で、一人ひとりはバラバラになっていく。

 出自や性別、性的指向などにかかわらず能力のある者が成功できるようになる反面、一人ひとりの利害が対立して競争はどんどん激しくなっていく。その結果、「リベラルな知識社会」では、自分らしく生きることができない人たちが増えてしまう。

 攻略が極めて困難なゲームを「無理ゲー」と呼ぶが、いまや多くの人が「無理ゲー社会」に放り込まれたように感じているのではないか。

 世間を震撼させた「京都アニメーション放火事件」や「大阪精神科クリニック放火事件」は孤独な中高年男性が引き起こした。今回の銃撃事件と重なる部分が少なくない。

 個人が地域の共同体に包摂されていた時代は、暴力の標的は“身近な誰か”に向けられた。政治家を襲撃するのは、なんらかの思想的な背景を持つ者に限られていた。だが、共同体とのつながりが消失してしまえば、個人的な怨恨がいきなり、社会や公的な人物に向けられることになる。

 競争に敗れ、社会や性愛から排除されてしまっても、誰も「敗者」として生きていくことはできない。「自分は被害者/善」という自己正当化が必要で、そのために「加害者/悪」の物語を生み出す。もちろん、ほとんどの人は犯罪など起こさないが、ベルカーブ(正規分布)の端には極端な者がいて、本人以外には理解不能な怒りを暴発させるのではないか。

 いまの日本社会の問題は、「孤立した男」の母数が急激に増えていること。当然、ベルカーブの端の人数も増える。次にどんな事件が起きるかは、予測不可能だ。

※週刊ポスト2022年7月29日号

関連記事

トピックス

かりゆしウェアのリンクコーデをされる天皇ご一家(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《売れ筋ランキングで1位&2位に》天皇ご一家、那須ご静養でかりゆしウェアのリンクコーデ 雅子さまはテッポウユリ柄の9900円シャツで上品な装いに 
NEWSポストセブン
注目度が上昇中のTBS・山形純菜アナ(インスタグラムより)
《注目度急上昇中》“ミス実践グランプリ”TBS山形純菜アナ、過度なリアクションや“顔芸”はなし、それでも局内外で抜群の評価受ける理由 和田アキ子も“やまがっちゃん”と信頼
NEWSポストセブン
中居、国分の騒動によりテレビ業界も変わりつつある
《独自》「ハラスメント行為を見たことがありますか」大物タレントAの行為をキー局が水面下でアンケート調査…収録現場で「それは違うだろ」と怒声 若手スタッフは「行きたくない」【国分太一騒動の余波】
NEWSポストセブン
定年後はどうする?(写真は番組ホームページより)
「マスメディアの“本音”が集約されているよね」フィフィ氏、玉川徹氏の「SNSのショート動画を見て投票している」発言に“違和感”【参院選を終えて】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
皇室に関する悪質なショート動画が拡散 悠仁さまについての陰謀論、佳子さまのAI生成動画…相次ぐデマ投稿 宮内庁は新たな広報室長を起用し、毅然とした対応へ
女性セブン
スカウトは学校教員の“業務”に(時事通信フォト)
《“勧誘”は“業務”》高校野球の最新潮流「スカウト担当教員」という仕事 授業を受け持ちつつ“逸材”を求めて全国を奔走
週刊ポスト
「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
「情報商材ビジネス」のNGフレーズとは…(elutas/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」は“訴えれば勝てる可能性が高い”と思った》 「情報商材ビジネス」のNGフレーズは「絶対成功する」「3日で誰でもできる」
NEWSポストセブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン