国内

【安倍氏銃撃】茂木健一郎氏の分析「容疑者の“心の理論”の欠如が生んだ事件」

安倍氏銃撃事件を脳科学者の茂木健一郎氏はどう見る?(時事通信フォト)

安倍氏銃撃事件を脳科学者の茂木健一郎氏はどう見る(時事通信フォト)

 戦後初となる総理大臣経験者の暗殺事件がニッポン社会を大きく揺るがしている。なぜ悲劇が起きたのか、脳科学者の茂木健一郎氏が分析する。

 * * *
 現代社会の映し鏡のような事件ではないか。自分の母親が関係した旧統一教会と安倍晋三・元首相につながりがあったことが殺害の動機とされている。安倍氏が関連の団体のイベントにメッセージを送っていたことなどが報じられているが、相手は日がな一日全国を駆け回っていた元総理大臣である。多種多様な人と接する機会のある安倍氏と団体の関係値はいかほどだったか。または、安倍氏の脳内円グラフの中でどれくらいの割合を占めるものだったのか――少し考えれば分かるはず。

 YouTubeを見て銃を作成したという報道から考えると、容疑者はネットに出回っている情報で両者の関係性を勝手に判断してしまったのではないか。脳科学で言えば「心の理論」が薄弱だった。

 心の理論とは、他者の心的状態や行動を理解する機能・能力のこと。なぜ理論と呼ぶのかと言えば、「他者」は相手の意識状態を直接は知り得ないという意味で絶対的な異物であり、その心の状態は「理論」として推定するしかないからである。だからこそ、様々な情報源や他者と接し、より正しい理論を構築することが肝要となるが、容疑者にはそれが足りなかったのではないだろうか。

 一方の安倍氏は、その政治姿勢が論争の的になる人物だったが、心の理論には秀でていた。直接会った政治家の中でもその能力はトップクラスだった。そんな彼が心の理論が薄弱な者に殺されてしまったのは、非常に歯がゆい。

 我々は今回の事件を教訓としなければならない。なぜなら、現代社会を生きる人々が心の理論を発達させられているかと問われれば、首肯しがたいからだ。一部分の情報を捉えて拡大解釈する風潮が瀰漫しているし、身勝手な思い込みを他者にぶつけることもしばしば見られる。ある出来事に接した時に、全体を俯瞰できる人が少なくなっているのではないか。

 現代社会が抱える課題はたくさんあるが、やはり総合的な知性や教養が今ほど必要とされる時期はないだろう。そのために一人ひとりができることは何か。真剣に考えなくてはならないと思う。

※週刊ポスト2022年7月29日号

関連記事

トピックス

「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
グラドルデビューした渡部ほのさん
【瀬戸環奈と同じサイズ】新人グラドル・渡部ほのが明かすデビュー秘話「承認欲求が強すぎて皆に見られたい」「超英才教育を受けるも音大3か月で中退」
NEWSポストセブン
2人は互いの楽曲や演技に刺激をもらっている
羽生結弦、Mrs. GREEN APPLE大森元貴との深い共鳴 絶対王者に刺さった“孤独に寄り添う歌詞” 互いに楽曲や演技で刺激を受け合う関係に
女性セブン
無名の新人候補ながら、東京選挙区で当選を果たしたさや氏(写真撮影:小川裕夫)
参政党、躍進の原動力は「日本人ファースト」だけじゃなかった 都知事選の石丸旋風と”無名”から当選果たしたさや氏の共通点
NEWSポストセブン
セ界を独走する藤川阪神だが…
《セの貯金は独占状態》藤川阪神「セ独走」でも“日本一”はまだ楽観できない 江本孟紀氏、藤田平氏、広澤克実氏の大物OBが指摘する不安要素
週刊ポスト
「情報商材ビジネス」のNGフレーズとは…(elutas/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」は“訴えれば勝てる可能性が高い”と思った》 「情報商材ビジネス」のNGフレーズは「絶対成功する」「3日で誰でもできる」
NEWSポストセブン
入団テストを経て巨人と支配下選手契約を結んだ乙坂智
元DeNA・乙坂智“マルチお持ち帰り”報道から4年…巨人入りまでの厳しい“武者修行”、「収入は命に直結する」と目の前の1試合を命がけで戦ったベネズエラ時代
週刊ポスト
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン