スカウトは学校教員の“業務”に(時事通信フォト)
甲子園の切符をかけ、地方大会の激戦が繰り広げられている。選手たちの熱闘の舞台裏では、全国の強豪校においてチームの土台を支える「スカウト担当教員」の役割が大きくなっているという。令和の高校球界の新潮流をノンフィクションライターの柳川悠二氏がレポートする。(文中敬称略)【全3回の第1回】
「教員」がスカウトを担当し全国を奔走
この夏、神奈川大会における横浜高校の“開幕投手”は1年生左腕だった。池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』の主人公・長谷川平蔵の幼名から名付けられた小林鉄三郎。横浜と太いパイプのある中本牧シニア出身で、昨夏の中学硬式野球日本一に輝き、数十校から勧誘を受けたスーパー中学生だった。小林は言う。
「一番成長できると思える学校が横浜でした」
横浜といえば名将・渡辺元智を小倉清一郎という名参謀が支えていた時代から、スカウティング(選手勧誘)に力を入れてきた学校だ。事務員として横浜に勤務していた小倉(のちに教員免許を取得)が全国を飛び回り、松坂大輔や筒香嘉智らを横浜に導いていた。2015年の渡辺退任後、スタッフは入れ替わったが、日本一に輝いた今春のセンバツではスタメンのうち7人が県外出身で、今夏のベンチ入りメンバー20人のなかに神奈川出身は5人しかいない。
同校で選手勧誘を担当する部長の高山大輝は、日本史の授業を受け持つ教員である。激戦区の神奈川で雌雄を争う東海大相模でも、スカウティングを担当するのは保健体育の教員である部長の和泉淳一だ。同校OBの和泉は、東海大甲府で長く部長を務めたあと、2022年夏から現職となった。
「うちが選手勧誘に力を入れるようになったのは2000年代に入ったぐらいですね。高校野球はわずか2年半しか時間がありません。できるだけ素材の良い選手に入部してもらって、育てていくことが生命線と考える学校が増えた時期に重なります」
横浜も東海大相模もOBのネットワークを用いて中学生の情報を集めていき、最終的に高山や和泉といった責任教師が入学の“交渉”にあたる。
「うちへの入学を希望してくれる選手がいた場合、中学校の校長や先生らとやり取りし、推薦書類などを用意してもらわなければならない。そして、中学校とのやり取りの時期に関しても、都道府県によってバラバラ。教員が中学校との窓口になったほうがスムーズにことが運ぶと思います」(和泉)