だから結城氏は、最終話「#拡散希望」で長崎の西、〈匁島〉に暮らす小学生4人組がiPhone7に〈突然の“未来”〉を感じ、〈僕は彼らのことが大好きだった〉〈無茶をしてくれる彼らがかっこよくて堪らなかった〉とYouTuberに憧れる時のワクワクした感じも、負の側面と併せて、両方描くのだ。
「僕自身はマッチングアプリもリモートも使い方次第だと思うし、特に嫌悪感はない。ただ、現実にはあまり味わえない感情を喚起されるのもフィクションの魅力ですからね。イイ話も悪い話も両方書ける中、今回はバッド寄りの結末がたまたま合っていたから、後味サイアク系な話の詰め合わせになっただけで(笑)。
そうしたイヤ~な感じと、最終的には真相が開示され、答え合わせもしてくれる、エンタメならではの爽快感を組み合わせたんです。実際は誰も伏線なんか回収してくれない、正解なんかない世界を、僕らは生きていかなきゃならないので」
スッキリとモヤモヤが同居する読後感はまさに〈新感覚〉。存分にしてやられ、どんでん返されてこそ、考える力も湧くというものだ。
【プロフィール】
結城真一郎(ゆうき・しんいちろう)/1991年神奈川県鎌倉市生まれ。開成中高時代はサッカー部に所属し、東京大学法学部卒業後、会社員に。2018年『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、翌年デビュー。2020年に「惨者面談」が『本格王2020』に収録され、翌2021年には「♯拡散希望」で第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。平成生まれ初の受賞者に。また長編第3作『救国ゲーム』も第22回本格ミステリ大賞候補となるなど、目下注目の新鋭。182cm、80kg、A型。
構成/橋本紀子 撮影/内海裕之
※週刊ポスト2022年7月29日号