国内

死産の赤ちゃんが着るエンジェルドレス「たった1度だけ着る服だからこそより丁寧に」

生成りの色ならば明るく見えるという

「たった1度だけ着る服だからこそ」と思いを込める。宮崎さん(左)と東さん(右)が一つひとつ手作業で「エンジェルドレス」を作っていく

「最後に抱っこをしたい」──そう思っても、死産児は小さくて脆いため、それすらままならなかった。しかし、少しでも母親の気持ちに寄り添いたい。わが子との出会い、そして最後の別れを特別なものにするためにその女性は“天使のような産着”を作った。悲しみのなかに一筋の光を見出せるようにと願いを込めて。

 佐賀大学医学部附属病院(佐賀大病院)では、死産の赤ちゃん専用のドレス「エンジェルドレス」が用意されている。考案、開発したのは、看護師の山本智恵子さん(44才)だ。このエンジェルドレスについて、ノンフィクションライターの山川徹氏が綴る。【全4回の第3回。第1回から読む

 * * *
 エンジェルドレスが完成して間もない2017年秋。山本さんのもとに、佐賀大病院から報告がきた。

「今日初めてエンジェルドレスを着て、赤ちゃんが旅立ちました。本当にありがとうね」

 20代の若い母親が、エンジェルドレスを着たわが子を涙を流しながら、一日中抱いていたという。

「お母さんの癒しになったと聞き、ホッとしました」

 そう語った山本さんは、一方で複雑な心境を口にした。

「単純に喜べなかったと言えばいいか……。最善は尽くしましたが、エンジェルドレスを使わないですむなら、それに越したことはないわけですから」

 葛藤を抱えるのは、山本さんだけではない。縫い子たちは、エンジェルドレスを通して、子供を亡くした母親の悲しみと向き合っていた。

 東靖恵さん(49才)は山本さんが立ち上げた、障害者用の衣服制作を手掛ける一般社団法人「ReFLEL」のスタッフとして働き、2年半が経つ。

「障害を持つ人の服作りはとてもやりがいを感じるんです。自分が服を作ったことで、ご本人や親御さんに喜んでもらえる。それがうれしくて」

 東さんは、エンジェルドレスという言葉を初めて耳にして「キラキラしててかわいいな」という印象を抱いた。

「恥ずかしながら、それまで死産したお母さんについて、考えたこともなくって……。私もひとりの母親として、わが子を抱きたいという気持ちは痛いほどわかります。

 私には、想像するしかないのですが、お母さんやご家族は悲しみのさなかにいる。そんなご家族にとって、赤ちゃんをただのガーゼで包むのとエンジェルドレスを着せてあげられるのでは気持ちが違うのではないでしょうか。障害を持つ利用者のかたと違って、エンジェルドレスを着るのは一度だけ。たった一度だけ着る特別な服だからこそ、より丁寧に作らなければと感じています」(東さん)

関連記事

トピックス

創価学会の「自民党離れ」は今年4月の衆院島根1区補選でも
【自公連立終焉へ】公明党の支持母体・創価学会の「自民党離れ」が進む 岸田首相の「解散やるやる詐欺」に翻弄され“選挙協力”は風前の灯火
週刊ポスト
殺人を犯すようには見えなかったという十枝内容疑者(Facebookより)
【青森密閉殺人】「俺の人生は終わった」残忍な犯行後にキャバクラに来店した主犯格の社長、女性キャストが感じた恐怖「怒ったり、喜んだり感情の起伏が…」近所で除雪手伝いの裏の顔
NEWSポストセブン
亡くなったことがわかったシャニさん(本人のSNSより)
《ボーイフレンドも毒牙に…》ハマスに半裸で連行された22歳女性の死亡が確認「男女見境ない」暴力の地獄絵図
NEWSポストセブン
長男・正吾の応援に来た清原和博氏
清原和博氏、慶大野球部の長男をネット裏で応援でも“ファン対応なし” 息子にとって雑音にならないように…の親心か
週刊ポスト
殺害された谷名さんの息子Aさん
【青森密閉殺人】手足縛りプラスチック容器に閉じ込め生きたまま放置…被害者息子が声を絞り出す監禁の瞬間「シングルで育ててくれた大切な父でした」
NEWSポストセブン
竹内涼真と
「めちゃくちゃつまんない」「10万円払わせた」エスカレートする私生活暴露に竹内涼真が戦々恐々か 妹・たけうちほのかがバラエティーで活躍中
女性セブン
史上最速Vを決めた大の里(時事通信フォト)
史上最速V・大の里に問われる真価 日体大OBに囲まれた二所ノ関部屋で実力を伸ばすも、大先輩・中村親方が独立後“重し”が消えた時にどうなるか
NEWSポストセブン
大谷が購入した豪邸(ロサンゼルス・タイムス電子版より)
大谷翔平がロスに12億円豪邸を購入、25億円別荘に続く大きな買い物も「意外と堅実」「家族思い」と好感度アップ 水原騒動後の“変化”も影響
NEWSポストセブン
被害者の渡邉華蓮さん
【関西外大女子大生刺殺】お嬢様学校に通った被害者「目が大きくてめんこい子」「成績は常にクラス1位か2位」突然の訃報に悲しみ広がる地元
NEWSポストセブン
杉咲花
【全文公開】杉咲花、『アンメット』で共演中の若葉竜也と熱愛 自宅から“時差出勤”、現場以外で会っていることは「公然の秘密」
女性セブン
京急蒲田駅が「京急蒲タコハイ駅」に
『京急蒲タコハイ駅』にNPO法人が「公共性を完全に無視」と抗議 サントリーは「真摯に受け止め対応」と装飾撤去を認めて駅広告を縮小
NEWSポストセブン
阿部慎之助・監督は原辰徳・前監督と何が違う?(右写真=時事通信フォト)
広岡達朗氏が巨人・阿部監督にエール「まだ1年坊主だが、原よりは数段いいよ」 正捕手復帰の小林誠司について「もっと上手に教えたらもっと結果が出る」
週刊ポスト