かつて「母親の愛情を感じながら滑っています」と語っていたことも(写真/dpa/時事)

かつて「母親の愛情を感じながら滑っています」と語っていたことも(写真/dpa/時事)

 連日通っていたスケートリンクが経営難によって閉鎖されたときも、母親が羽生にスケートを諦めさせなかった。遠方の練習場への送迎を買って出て、不自由のない練習環境の維持に努めた。2011年、東日本大震災でホームとしていたリンクが被災すると、翌年新しい拠点をカナダ・トロントに求めた。当時、羽生は高校生。ひとりでの渡航も考えられないわけではなかったが、母親は同行を決めた。2年後にソチ五輪が控えていた。

「トロントでの羽生選手はすべての時間をスケートのために捧げ、チームの仲間と食事に出かけることさえ一度もなかった。そんなスケート漬けの生活を支えていたのがお母さんでした。マンションで共に暮らし、パンが苦手な羽生選手のためにお米の料理を作ったりと、食事や生活の面倒だけでなく、練習もつきっきりで見守っていました」(現地のフィギュアスケート関係者)

 スケート経験のない母親は、技術的な指導はコーチに一任していた。しかし、練習が終わると率先して、スケーティングの動画のチェックを行う。そして、細かくアドバイスをすることもあったという。羽生はそれについて「意外な視点が役に立つんです」と明かしていた。誰よりも羽生を知る母の目は、何よりも信頼できるものだったに違いない。

 母親と息子がカナダでスケート漬けの間、仙台の自宅では4才年上の羽生の姉が、家事全般を引き受けていたという。カナダで、日本で、まさに家族の総力で勝ち取ったのが、ソチと平昌での金メダルだった。

家族を解放してあげたい

 母親と二人三脚で歩んだ長い競技人生。その間、反目し合ったことがないわけではない。羽生には小学2年生のときから懇意にしている整体師がいた。ジャンプでひねった脚の治療をしてもらったことをきっかけに、いつしか整体師は羽生の遠征にも同行するパートナーになっていた。しかし、五輪で連覇を果たした直後から、試合会場でその整体師の姿が見られなくなった。

「整体師本人は年齢を理由にしていますが、実際は、羽生選手を前面に打ち出した書籍を出そうとして、母親と折り合いが悪くなったのです。それでも羽生選手の整体師への信頼は変わらなかったようなのですが、結果的に袂を分かつことになってしまいました」(スポーツライター)

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