〈過去と未来は、別の概念ではなく、同じ大地の中にある〉とあるが、真っ新な大地に線を引き、まだ見ぬ世界に思いを馳せることは、私たちの心を躍らせる一方、覇権的な征服欲をも生む。その両面に著者は目配せし、地図と拳の裏腹な業について、持てる知識や想像力を総動員し、物語化するのだ。

「地図や満洲の専門家でもない僕は、あくまで小説を通じて考えたり考えさせることしかできないわけです。人によっては善かれと思い、正しいと信じた振る舞いが、ドミノのようにあらぬ方向へも反転するのが、歴史の面白さでも怖さでもある。あの時は軍が暴走したから、とかではなく、もっと人や社会の根本に関わる構造に、僕の知的興味はあるので」

 細部まで周到につかれた大ウソを、どんな距離感で楽しむかは読者次第。が、そこで起きることの多くは、私たちの今と地続きにある。

【プロフィール】
小川哲(おがわ・さとし)/1986年千葉県生まれ。東京大学教養学部卒。同大学院総合文化研究科博士課程退学。専攻は表象文化論で、数学者アラン・チューリングを研究。「数学も基礎論まで行くと哲学っぽくなるんで」。同2年在籍中の2015年に『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。2017年の『ゲームの王国』で第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞を受賞した他、前作『嘘と正典』も国内外で注目される。183cm、71kg、O型。

構成/橋本紀子 撮影/国府田利光

※週刊ポスト2022年8月5・12日号

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