『プレバト!!』の劇的添削でも大人気
例えば〈おしゃべり俳句〉。例年なら1年の大半を種蒔きの旅に過ごす彼女は、コロナ禍で活動が制限された’20年4月、YouTube上に『夏井いつき俳句チャンネル』を開設。なかでも人気なのが、子供のふとしたお喋りの中に詩を見出し、周りの大人が俳句の形に整える「おしゃべり俳句」だ。
以下、少しだが、ご紹介しよう。
〈とうさんを寝かせてきたよ窓に月 /ひかる五歳〉
〈えっママは大人だったの梅ひらく /ななせ四歳〉
「いいでしょう? このシリーズは、子供の話をもっとちゃんと聞こうよ、しかもその目的が俳句だなんて素敵じゃない?ってことで始めた、実は大マジメな社会活動なのです。
もちろん子供は単に思ったことを喋ってるだけ。でも語彙が少ない上に文法が未熟だから、その欠落が彼らの言葉を偶然、詩にしているんです。
その偶然、詩になっていることに、気づける親をまずは褒め、褒められた親が自分や子供を褒めて、おまけにYouTubeで作品まで褒められるなんて、みんながハッピーでしょ。というと、子供がいない人はどう思うかなあとも思ったんだけど、駐車場を警備中、行きずりの子供から聞かれた質問に、春の季語、龍天に登るを取り合わせた〈龍天に登るトイレはどこですか〉の作者とかね。ああ、こういう人がいるなら、自信を持ってやろうと。
あるいは悪口や負の感情を俳句に昇華させる〈悪態俳句〉も社会運動の一環で、それが誰の誰に対する悪態か、設定がぼやけるのも俳句のイイところなんです。文章だと具体的な状況がわかっちゃうけど、俳句はその17音に描かれた断片から読む人が想像するしかない。だから詩として純度が高く、いい感情も悪い感情も安心して詠めるんだけど、俳句を詠む人って自分の中にあんまりズカズカ、入られたくないの。逆に自分の感情をペロペロ舐めたいタイプは、短歌の方が合っている(笑)。
例えば父が死んだ時のことも俳句の形では私なりに消化してきたんですけどね。それを今回は改めて事実として書かされた気もして、正直、ハメられたなあと、ちょっと思った(笑)」
それこそ第35話「実家と墓と御位牌と」以降、 実家の解体をきっかけに蘇るビビッドな記憶の数々が続く。
(後編に続く)
取材・構成/橋本紀子 撮影/藤岡雅樹
※女性セブン2022年8月18・25日号