スポーツ

【独占密着・聖隷クリストファー】日替わりヒーローで見せつけた「個の力」じゃない「チームの力」

聖隷クリストファーのナイン

さまざまな選手が活躍し県の準決勝まで進んだ聖隷クリストファーのナインら

 夏の甲子園の49代表校が決まった裏では、多くの学校が地方大会で敗退した。昨秋の東海大会で準優勝しながら、春のセンバツ選考で東海地区代表「2枠」に入れなかった聖隷クリストファー(静岡)も、県大会準決勝で敗れた。だが、夏の静岡大会での戦いぶりは、「個人の能力」がなくても勝てることを証明するようなものだった。本誌・週刊ポストでセンバツ直前に選考委員や高野連会長の証言をスクープしたノンフィクションライターで『甲子園と令和の怪物』著者の柳川悠二氏が独占密着した。【全3回の第2回。第1回を読む

 * * *

 今春、選抜に落選した聖隷クリストファー高校の救済措置を求めるべく取材を続けた私は、夏を迎えて彼らに対する肩入れも人一倍強くなっていた。選抜に不選出となった際に指摘された「個々の能力の差」を覆そうと、チームの和の力で、勝ち上がっていく様は実に痛快だった。

 公正・中立の報道の立場を忘れて、彼らのピンチには身体が震え、得点が入れば心の中で叫声をあげた。酷暑の中での熱い戦いを、冷房の効いた記者室で見ることはとてもできない。バックネット裏から彼らの一挙手一投足を追い、劣勢になるとついつい聖隷の応援席に移動して試合を見守った。

 1回戦の相手は静岡市立。1回表に3点を先攻した聖隷だったが、その後は追加点が奪えない。序盤は相手の早打ちに助けられていた背番号「10」の今久留主倭も、終盤に入って疲労が顕著となり、6回に1失点、8回にも1失点して1点差に肉薄された。しかし、最終回は打者3人で切って取り、3-2で勝利。今久留主が8安打を浴びながらとにかく粘りぬいた。

 そして、2回戦で聖隷の前に立ちはだかったのが春の静岡大会と東海大会の王者である第1シードの私立・浜松開誠館だ。聖隷は幸先良く4点をリードした。だが、開誠館も今久留主を5回にとらえ、4-4の同点に。上村敏正監督(65)は今久留主を諦め、公式戦初登板となる期待の1年生左腕・山内玄基をマウンドに送る。すると6回裏に不調の右翼手に代えて入っていた小出晴希が走者一掃のタイムリーを放ち、8-4と勝ち越しに成功。上村監督の早い決断と、交代した選手の活躍で、春の王者を10対5と圧倒した。

 苦しい試合となったのが3回戦の浜松城北工戦だ。昨秋の東海大会における快進撃の立役者だった左翼手の左腕・塚原流星が先発し、2回につかまると、今久留主がリリーフとしてマウンドに上がった。しかし、グラウンド整備が入る5回を終えて、0対5と点差を広げられてしまう。

本当に、いろんなことが起こるチームです

 劣勢から大逆転を引き起こしたのは、打撃不振の2年生に代わって4番一塁に入っていた主将の弓達寛之だった。6回裏に先頭打者として2塁打を放って反撃ののろしをあげると、8回には逆転の2点タイムリーを放ち、8対5と勝利した。

 4回戦の袋井戦のプレイボール直前、ベンチの裏にいると、背番号「1」を見つけた。主将の弓達を激励しようと近寄ったが、どうも様子が違う。178センチの弓達にしては小柄なのだ。他にも新たにベンチ入りしている選手が数人いて、私は聖隷に何が起きているのかを察した。上村監督に一声かけると、こう返された。

「本当に、いろんなことが起こるチームです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
横浜地裁(時事通信フォト)
《アイスピックで目ぐりぐりやったあと…》多摩川スーツケース殺人初公判 被告の女が母親に送っていた“被害者への憎しみLINE” 裁判で説明された「殺人一家」の動機とは
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト