芸能

状況説明も担う 映画『この世界の片隅に』の効果音が作られた裏側

効果音作成にはどんな工夫が? (C)2019こうの史代・コアミックス/「この世界の片隅に」製作委員会

効果音作成にはどんな工夫が(C)2019こうの史代・コアミックス/「この世界の片隅に」製作委員会

 映画『この世界の片隅に』(片渕須直監督)では、生活や自然の効果音が作品世界の情感をより深めていた。そうした効果音が作られた裏側について、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、音響効果を担当した柴崎憲治氏に話を聞いた。

 * * *
柴崎:全てを「リアルな音」にするかというと、そういうことではないんです。何より映画としてちゃんと面白く見せなくてはいけません。

――たとえば、どの辺りをフィクショナルにしていますか?

柴崎:水桶を担ぐ天秤棒の音がそうですね。作中ではギシギシいいますが、実際は音なんてしません。でも、「当時はこういう生活をこの人たちがしていたんだよ」ということをハッキリ伝えるためには、そういう音は足していくんです。かまどの音もそうです。実際はあんなにバチバチいわないですよ。料理でも包丁の音は誇張しています。

――今はもうない生活風俗ですから、そうした誇張をしないと伝わらない恐れがありますからね。

柴崎:そうなんです。「画」だけだと、観客も「え、これ何?」ってなりかねないんですよね。何をしているか分かるためには、その「音」が必要なんです。

――前半では遠くから波の音が聞こえてくるのも印象的でした。画として映っているものだけでなく、映っていないものにも音を入れています。

柴崎:主人公の生まれた家は海苔業者をやっています。海が近いわけです。ですから、ああいう音が聞こえるようにしました。ところが、嫁いだ先は山の上なんです。呉には『男たちのYAMATO』撮影時に一度行ったことがあり、あの辺りの地形は頭に入っていましたが、『孤狼の血』という同じ呉を舞台にした映画も担当した時に、記憶の確認のために『この世界~』と同じ山に上がってみたんです。

 すると、いざ行ってみると音の聞こえ方が全く違うんです。俯瞰で港が見えるのですが、音はというと、鳥の声とかは聞こえるけども、海の音なんて聞こえないんですよ。

――音によって、主人公の生活環境の変化を伝えられるわけですね。

柴崎:最初の頃は船で町に行きます。広島は川沿いに町ができていて、餌場があるので水鳥がいます。ですから、生活場面には水鳥の鳴き声を入れています。そして山に移った時には、聞こえてくる鳥の鳴き声を変えるわけです。

 効果音は、場所を説明したり、時間経過を表現するなど、ある面では状況説明の役割を担います。そこは、音楽が担うエモーショナルな部分と異なります。

関連記事

トピックス

大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
“進次郎劇場”で自民党への逆風は止まったか
《進次郎劇場で支持率反転》自民党内に高まる「衆参ダブル選挙をやれば勝てる」の声 自民党の参院選情勢調査では与党で61議席、過半数を12議席上回る予測
週刊ポスト
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト