沿ドニエストル共和国の通貨・沿ドニエストル・ルーブルはプラスチックでできている(TT News Agency/時事通信フォト)

沿ドニエストル共和国の通貨・沿ドニエストル・ルーブルはプラスチックでできている(TT News Agency/時事通信フォト)

 何のアピールかわからないが、こういう方々は国籍問わず「みんなのために良いことをしている」というエクスキューズを全面に出してくる。近年摘発される違法漫画サイトの運営がこぞって「(タダで読めると)みんな喜んでくれる」「(タダで読ませろと)要望があった」と言い訳しているところをみると、本当にそう思っているのかもしれない。

 この会社、いまどうなっているか名刺から辿ってみたがすでに消えていた。もっとも、名前を変えて海外でやっているのかもしれないが。

◆漫画なんて日本だけが困るんだから大丈夫

 漫画の違法サイト、いまも検索すれば日本語の原本とともに中国語、韓国語で翻訳された漫画がいくらでも出てくる。もうこの件に関しては筆者の経験上も国内問題というより「日本のオタクVS海外の犯罪勢力」という構図で考えていいと思う。「日本の漫画を勝手に使う産業」のネットワークがメジャー・マイナー問わず世界中で構築されている。これに関しては漫画を愛する日本人みんなで「海外の犯罪勢力からどう日本文化を守るか」を考えるべき問題だと思うし、それこそ内閣府、クールジャパン機構が率先して案を募ってもいいと考える。それほどまでに敵は謎で、日本人の常識の及ばない稼ぎ方をしている。

 冒頭の編集者の話で出た「義務教育レベルの社会科の授業じゃ出ないような国とか民族」というのがどういうところか――実際に調査したことがあると語るコンテンツプロバイダ(CP、電子書籍の提供事業者)幹部に聞いたところ、いまや中国や韓国はもちろん、たとえば沿ドニエストル共和国というモルドバとウクライナの国境沿いにある国際的にほとんど承認されていない国家で電子コミックの違法事業をしている形跡があったという。またアジアの中でもいまだ貧しいとされる国の工業学校の学生数百人がそういった事業を組織的に行い、その中には中国系企業から依頼されて運営する男性向け漫画の海賊版サイトがあったと聞く。アジアの工業系、情報系の学生たちや集落ぐるみの「IT村」が組織に関わっているというのは他の情報にもあった。

 このように書くと「外国の人を悪く言うな」という向きもあるだろうが、この件に関しては産業として国際的な犯罪を繰り広げているのは今や外国人か、その資本で雇われた連中ばかりなのが現実である。もちろんその中に「協力する日本人」「雇われた日本人」もいることは否定しない。

 直近でも筆者の後輩の話だが、転職した中国系コンテンツ会社で「漫画なんて日本だけが困るんだから大丈夫」と支社長が言うので即、辞めたという話がある。そのまま勤めたら片棒を担ぐことになったのだろうか。確かに「MANGA」は日本の独壇場だが舐められたもので、「ディズニーを守るためなら戦争する」と揶揄されたアメリカのように日本政府が強く動くべきだと思うのだが、政府はもちろん頼みのクールジャパン機構すら、この件で大いに役立っているとは言い難い。

 また、あまり大きな声で議論されることはないが、筆者は「二次創作」(既存の作品を利用して、独自のエピソードを漫画や小説などパロディ作品の形にする創作)分野の海賊版サイトが野放しにされている点も懸念している。日本のオタク文化の代名詞、約800億円規模という同人誌市場の4分の3は、「二次創作」が占めていると言われるが、そうした二次創作、とくに男性向けを無断で公開しているサイトが山のようにある。二次創作は出版社や著作者が推奨するコンテンツがある一方、大半の人気コンテンツにとって著作権の面でグレーな存在である。ある意味、それを逆手にとって無断公開しているのだろうか。

 作品人気が盛りあがるなら、と悪質でない限り日本のコンテンツホルダーは二次創作を黙認している。しかし、そういった特殊な事情のため、自分のつくった同人誌が違法アップロードされても声を上げづらいという現実がある。人気同人作品の多くがレギュレーション上センシティブな男性向け、というのもつけ込まれる理由だろうか。グレーとはいえ二次創作もまた表現文化として尊重されるべきだが、大っぴらに騒ぎにくいジャンルであることは事実だろう。この分野の被害は今後も拡大する可能性が高い。

 いまも日本文化が、日本人クリエイターの創作がメジャー・マイナー問わず侵害され続けている。繰り返すが、「タダで読める」「漫画は高い」「二次創作だから」「男性向けでしょ」「BLだろ」と野放しにすることは泥棒どもの思うつぼである。海外の泥棒どもにずっと舐められっぱなしだったが大手出版社はついに実力行使に打って出た。しかし中小出版や作家個人、同人界隈には限界がある。

 いまこそ日本政府が、より強く戦う姿勢をみせるべきだと思うのだが――。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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