筆者が懸念するのは、誰もが知っているメジャー漫画誌や大手出版社に限らず、日本の「オタク系」文化を根底で支える中小出版のマニア向け、男性向けの漫画もまた、好き放題に違法海賊サイトでばらまかれているという現実である。本稿、なるべく多くの一般の方にも読んでもらうため、レギュレーション上の問題も含め、あえて専門用語やスラングを平易に置き換えていることをご理解願いたい。
「うちの漫画を見つけても警告と削除依頼が関の山かな。言って削除されたらラッキーで、もうそれでいいやって感じ。もっとも、本当に削除されてるかはあやしいけどね、でも仕方ない。もう義務教育レベルの社会科の授業じゃ出ないような国とか民族まで日本の海賊版で儲けてるからさ」
最後のくだりは後述するとして、「あやしい」というのは、外国からの配信の場合、日本向けのサイトだけ削除してお終い、というケースがある。それどころか、近年では日本にだけ見られないようにしているサイトもある。もちろん、日本国内のISP提供各社がブロッキングして見られないようにしている場合もあるかもしれないが、これはこれで野放しになってしまうだけという批判もある。
「オタク向け漫画はもちろん、同じ漫画でも男性向けなんかネットで『盗まれたっていいだろ』って言われることもある。まあ、日本人でも海賊版サイトで読んでる人はいっぱいいるわけだから、そんなこと言うのは『そういう人』なんだろうけど」
とくに男性向け漫画やBLは中小出版や個人が多く、大手のように国際的な対応に手がまわらない。それこそやられたい放題だ。男性向け漫画を扱うECサイトの中には親会社が大手企業の場合もあり、海外の違法サイトを相手に法的手段をとるだけの体力のある企業もあるが、扱っている内容が内容なだけに大手の一般メジャー作品ほどには難しい、というのが実情だ。
「出版社や作者に正当なお金が入らなくなれば、読めなくなるのは読者の側なのにね。全員がそうじゃないってわかってるけど、思うところはあるよ」
ただ現実問題として、海賊版サイトの漫画を読む側を規制するのは難しいだろう。単なる他罰では簡単に解決できないからこそ、連中はそれに乗じて世界中で跋扈している。
こうした違法サイト、もちろんいまに始まったことではない。筆者もまた2010年初頭、そうした連中を目の当たりにしている。そして、彼らの言い分が、かつても今も変わらないことを知っている。たとえば、こんなことがあった。
みなさんで持ち寄ればビジネスになります
「クールジャパンは世界で大人気です」
新宿の貸会議室。細身の若者がパワーポイントのいかにもな資料を使い熱心に話す。筆者は漫画編集者として元大手ゲーム会社のプロデューサー氏の相談を受け、この席にいた。細身の若者の隣には、おおよそ漫画やアニメとは縁遠い感じの、髪を金髪メッシュに染めた大柄な男性がいた。よく日焼けして、当時の「やんちゃ系」に流行ったシルバーアクセサリーを指じゅうにはめている。あとはもうひとり、日本語の話せる中国人がいた。
「みなさんで持ち寄ればビジネスになります」
中国人が話す。最初はデジタルコミックを作りたいという話だったはずが違う。持ち寄るとはどういうことか。具体的な話がまるで見えない。
「オタクの漫画は海外で人気なんですよ」
大柄な男性もまた「いまさら」の話をする。当時のおじさん向け経済誌にあった「オタクビジネスが熱い」的な記事を読んで影響を受けただけ、というわけでもなさそうだ。「シノギ」ならなんでも構わないというアウトローの臭いがする。私になにか隠し、何かをさせたがっている。しかし世話になっているプロデューサー氏の頼みだから、話を聞くだけなら仕方がない。