ライフ

アニメ映画『この世界の片隅に』 現実より「本物」に聞こえる音響効果

様々な音にこだわりが(C)2019こうの史代・コアミックス/「この世界の片隅に」製作委員会

様々な音にこだわりが(C)2019こうの史代・コアミックス/「この世界の片隅に」製作委員会

 映画『この世界の片隅に』の序盤は長閑な自然や日常の音に満たされている。戦争が激化するにつれて、その空間に兵器による無機質な金属音が侵食してくる。こうした音の変化の狙いについて、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、音響効果を担当した柴崎憲治氏に話を聞いた。

 * * *
――米軍の戦闘機が飛来し、機銃掃射してくる時の音の怖さはとてもインパクトがありました。

柴崎:あれは、アメリカにあるライブラリーに実際のグラマン(艦上戦闘機)の音があるんです。その音に『男たちのYAMATO』の時に使った十二・七ミリの機関銃による金属音を足しています。グラマンは飛ぶ時に真鍮の薬莢を落としていくんです。やっぱり金属のキンキンする音は怖いですね。

――焼夷弾の落ちてくる音も怖かったです。

柴崎:実際の焼夷弾は、ああしたヒューヒューという音で落ちないそうです。実際に空襲を経験した人に聞いてみたら、「あれはな、鉄片が落ちるんだ」と。鉄の破片がバラバラ、ガチャガチャって落ちるような音なんだと言われまして。

 ただ、そこは「嘘」でもいいから、ああいうヒューッという音にしないといけない。人の恐怖感を煽らないといけませんから。弾がバラバラと落ち、バンと火がつき、バアーっと燃え広がるだけだと「これは怖いものだ」と分からないんです。

――たしかに、あのヒューッという音によって、死が間近にある恐怖が伝わってきました。

柴崎:ああいう高い音が入ることによって、危険な匂いが出るんですよね。人に恐怖感を与える音っていうのかな。それを使うことで、戦争がいかに怖いものかっていうのを分かってほしかったんです。

――実際にはあのヒューッという音が出ないとすると、どのように作られたのでしょうか。

柴崎:銃を撃った時の擦過音や弾道音がライブラリーにあるんです。そこに、風切り音を足しています。風のピューっという呻りの音を録って、そのピッチを後で変えることで、作中の音にしています。

 ヒューンという音だけでも二、三種類の音があるんです。それを広げたり狭めたりしながら、金属音を足したりして。それは「作られた世界」なわけですが、大事なのは、観る人にとってそれがさも本物のように聞こえることなんです。爆弾の怖さ、焼夷弾の怖さ、ひいては戦争の怖さを、あの音から感じ取ってくれたらいいと思っていました。

関連記事

トピックス

安福久美子容疑者(69)の学生時代
《被害者夫と容疑者の同級生を取材》「色恋なんてする雰囲気じゃ…」“名古屋・26年前の主婦殺人事件”の既婚者子持ち・安福久美子容疑者の不可解な動機とは
NEWSポストセブン
ブラジルにある大学の法学部に通うアナ・パウラ・ヴェローゾ・フェルナンデス(Xより)
《ブラジルが震撼した女子大生シリアルキラー》サンドイッチ、コーヒー、ケーキ、煮込み料理、ミルクシェーク…5か月で4人を毒殺した狡猾な手口、殺人依頼の隠語は“卒業論文”
NEWSポストセブン
9月6日に成年式を迎え、成年皇族としての公務を本格的に開始した秋篠宮家の長男・悠仁さま(時事通信フォト)
スマッシュ「球速200キロ超え」も!? 悠仁さまと同じバドミントンサークルの学生が「球が速くなっていて驚いた」と証言
週刊ポスト
ソウル五輪・シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング=AS)銅メダリストの小谷実可子
《顔出し解禁の愛娘は人気ドラマ出演女優》59歳の小谷実可子が見せた白水着の筋肉美、「生涯現役」の元メダリストが描く親子の夢
NEWSポストセブン
ドラマ『金田一少年の事件簿』などで活躍した古尾谷雅人さん(享年45)
「なんでアイドルと共演しなきゃいけないんだ」『金田一少年の事件簿』で存在感の俳優・古尾谷雅人さん、役者の長男が明かした亡き父の素顔「酔うと荒れるように…」
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン