この店のルーツは、戦後間もない頃に初代の祖父が創業した『堀谷酒店』。父と伯父が2人で2代目を継いで、長年、店を守ってきた。
「平成3年に、父が酒屋の倉庫だった場所で店名を『よしのや酒店』として開業しました。当時から立ち飲みは細々とやっていました。
父が病で亡くなって、平成18年から長女の私が3代目として店を継いで母と一緒に酒屋を営んできました。平成22年には、改装して本格的に料理を出すスタイルにして、今は妹(三女の典子さん)も店を手伝ってくれています。最初の1、2年は大変でしたが、だんだんお客さんが口コミで広めてくれました。『おいしい』って言葉を聞くのは何よりも嬉しいですよね。
若い頃はカレーも炊けない子やったけど、料理は一生懸命やってきました。何でもやればできる。できないって決めつけないことやな」と語る店主の笑顔は、近隣のパワースポット、大國主神社の“大國さん”のように朗らかだ。
「この店に来ると勇気と希望をもらえるね。店主にエネルギーをもらって、よっしゃ明日も頑張ろうってな」(70代)
木津市場で働く常連客から「知る人ぞ知る隠れた名店!」と称賛される
店主が心をこめて仕込むつまみのほかに、もうひとつこだわっているのが「箸」だ。
「お客さんに出しているこの箸は、奈良・吉野杉でできていて、先代から続けているうちの伝統なんです。祖父が奈良・吉野の出身なので、ご縁があって、料亭には出荷できない少し曲がっているお箸をバラで仕入れているんです。
箸2本を、細く切った色紙で巻いて1組ずつセットを作って準備しています。母は令和2年に他界しましたが、生前、体が弱ってきて店に立てなくなっても手先だけは動くからって、店の奥でずっとこの作業をやってくれていました」(店主)。
現在は、夕方から店を手伝う従業員の高居一恵さん(60歳)がこの箸セット作りを受け継いでいる。
「私は元々、木津卸売市場で働いていたんですが、10年前にここを知って働かせてもらっています。智子さんは根っから人に尽くすタイプ。いつも一生懸命、自分が損をしてでも他人に尽くす人ですね」(高居さん)
左から三女の北地(きたじ)典子さん、店主の堀内智子さん、従業員の高居一恵さん
長く滑らかな吉野杉の箸でお気に入りの料理をつまむ客らは、ほろ酔い笑顔だ。
「智ちゃんも妹さんも従業員さんも昔っからよく知ってるからね、家にいるより気を使わんでええし、ここは仕事帰りのやすらぎやね」(60代)
店主と客の心が温かく通じ合うこの店で皆が和気藹々と飲んでいるのは、キリッと冷えた『焼酎ハイボール』。
「どんなつまみにも合う、すっきりとした辛口。これぞ庶民の味やな」(40代)
2022年6月10日取材
■よしのや酒店
【住所】大阪府大阪市浪速区大国3-1-22
【電話番号】06-6632-0396
【営業時間】11~22時(土曜は20時まで)、日曜・祝日定休
焼酎ハイボール280円、ビール大びん550円、本まぐろ刺身480円、日替わりおつまみセット330円、いわし天120円(1枚)
※営業時間等は店舗にお問い合わせください。撮影時はマスク、及び仕切りを外しています。