芸能

アニメ映画『この世界の片隅に』音響効果「沈黙」で表現するのも表現。音がないことも音

無音をどう使うのか(音響効果担当の柴崎憲治氏)

無音をどう使うのか(音響効果担当の柴崎憲治氏)

 自然の音、生活の音、兵器の音、さまざまな音に彩られた映画『この世界の片隅に』だが、無音になる瞬間がある。それは、物語の重要な分岐点となる、不発弾が爆発する場面。なぜ、ここで、無音となったのか――。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、音響効果担当の柴崎憲治氏に聞いた。

 * * *
柴崎:あの場面は、最初は音を入れていたんですよ。爆発の音なども全て付けていました。ですが片渕須直監督とも相談した上で、「音をつけるのはやめよう」ということになったんです。音がないほうが、あの衝撃的な世界観が出ますから。

 花火のようなチチチっていう音を入れたのは監督の発想です。実際に音をつけたのは僕だけども、ああいう感じにしたいと言い始めたのは監督です。あそこで幻想的な、別の世界にひきこまれてしまうのは、爆発がなくてもわかるだろうという話になったのです。「静かな中であの世界に入ったほうが、より戦争の残酷さが出るんじゃないの」と監督と話をしました。

「真っ暗な画」というのがいいじゃないですか。それは「お先真っ暗」ということですよ、それに音をつけると、あの印象が弱くなっちゃうんですよ。音がないことによってインパクトが出てくる。

――作品にとって最重要な場面ですから、そこは監督も柴崎さんも大事な選択になってきますね。

柴崎:だから、監督もそこはものすごく考えていたと思うんです。多分、迷ったんじゃないですかね。

―― 一度音を入れてみたからこそ「必要ない」と気づけた、と。

柴崎:必ず一度はやってみるんですよ。音をつけてみないと分からない時があるんです。最初から音を引いてしまうのは変ですから。

 つないでいた手がなくなり、子供も死んでしまう――その現実を受け入れることができない表現として「暗闇」があるので、音では表現しなくてもいいと思いました。「沈黙」で表現するのも、それは一つの音の表現じゃないかと。音がないことも音ですから。

 音をつけるばかりが音じゃないんです。そこは監督も分かっていたと思いますよ。といっても、無音というのは何か所も使えないんですよね。一つの映画で一か所か二か所。

 それで初めて効果的になる効果音として役に立つという気がします。音がすべてあることが音でもないし、無音でも音がないということではないんですよ。

――『この世界~』の戦争音で感じたのは、『プライベート・ライアン』の冒頭に近い恐怖です。一つ一つの銃弾の音が死を予感させる、そんなリアルで恐ろしい金属音があちこちから飛んでくる。

柴崎:あれは僕も勉強しました。ゲイリー・ライドストロムの効果音の構成の仕方は素晴らしい。

関連記事

トピックス

無名の新人候補ながら、東京選挙区で当選を果たしたさや氏(写真撮影:小川裕夫)
参政党、躍進の原動力は「日本人ファースト」だけじゃなかった 都知事選の石丸旋風と”無名”から当選果たしたさや氏の共通点
NEWSポストセブン
2人は互いの楽曲や演技に刺激をもらっている
羽生結弦、Mrs. GREEN APPLE大森元貴との深い共鳴 絶対王者に刺さった“孤独に寄り添う歌詞” 互いに楽曲や演技で刺激を受け合う関係に
女性セブン
「情報商材ビジネス」のNGフレーズとは…(elutas/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」は“訴えれば勝てる可能性が高い”と思った》 「情報商材ビジネス」のNGフレーズは「絶対成功する」「3日で誰でもできる」
NEWSポストセブン
セ界を独走する藤川阪神だが…
《セの貯金は独占状態》藤川阪神「セ独走」でも“日本一”はまだ楽観できない 江本孟紀氏、藤田平氏、広澤克実氏の大物OBが指摘する不安要素
週刊ポスト
入団テストを経て巨人と支配下選手契約を結んだ乙坂智
元DeNA・乙坂智“マルチお持ち帰り”報道から4年…巨人入りまでの厳しい“武者修行”、「収入は命に直結する」と目の前の1試合を命がけで戦ったベネズエラ時代
週刊ポスト
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン