加計学園問題との類似性
2018年に行われた学校法人「加計学園」傘下・岡山理科大学獣医学部の入学式(時事通信フォト)
行政の公平・公正が大きく歪められたのは安倍政治の特徴だったと言える。森友学園問題では、安倍氏の妻・昭恵夫人が名誉校長を務める小学校の開設を予定していた同学園に近畿財務局が国有地を格安で払い下げた。
そして政府の業者選定にあたって、特定の法人に有利になるように条件(制度)を変えたのが、国会で大きな問題となった加計学園の獣医学部認可問題だ。その手法は今回の国葬入札に通じるところがある。
大学の獣医学部新設は1966年の北里大学を最後に過去50年以上認められていなかったが、政府は2017年に安倍首相(当時)の留学時代からの友人で「腹心の友」である加計孝太郎氏が経営する加計学園傘下の岡山理科大学に獣医学部(今治キャンパス)の新設を認可し、翌年、開学した。その経緯は強引なものだった。
愛媛県と今治市は加計学園からの提案を受けて獣医学部誘致を目指し、2007年から国に「特区」を提案していたが、文科省は「獣医師養成機能をもつ大学を特区制度で新設することは困難」と一貫して拒否してきた。
だが、第2次安倍政権が発足すると状況が一変する。安倍首相が「岩盤規制にドリルで穴を開ける」とアベノミクスの一環で特定の地域に限って従来の規制を大幅に緩和する「国家戦略特区」計画を推進すると、愛媛県と今治市は2015年6月、国に「国際水準の獣医学教育特区」を提案、そのわずか3週間後に安倍内閣は「日本再興戦略」の改定を閣議決定し、そこに「獣医師養成系大学・学部の新設の検討」を盛り込んだ。
その年の12月、国家戦略特区の第3次指定で「広島県及び(愛媛県)今治市」の指定がトントン拍子で決定した。そこにライバルが登場する。すでに国家戦略特区(関西圏)に指定されていた京都市が京都産業大学と組んで獣医学部新設に名乗りを上げたのだ。
安倍政権は“京都チーム”を排除するため、安倍首相を議長とする国家戦略特区諮問会議が獣医学部設置の地理的条件として、「広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする」という条件をつけた。
関西にはすでに大阪府立大学(現・大阪公立大学)の獣医学部があるが、四国には獣医学部を持つ大学はなかった。この条件で、事実上、獣医学部新設は今治市に絞られた。
そして2017年1月、今治市の国家戦略特区に新設する獣医学部の認可申請を受け付ける特例措置が告示されたが、受付期間はわずか8日間。申請したのは、加計学園(岡山理科大学)1校だけだった。こうして同年1月20日の国家戦略特区諮問会議で、加計学園を実施主体とする今治市での獣医学部新設が決定された。
前出の郷原弁護士は、「入札とは違うが、加計学園のケースも、政府が地理的条件を設定することによって京都産業大学を排除し、加計学園が獣医学部を設置できるようにしたと言えます」と指摘する。
今回の国葬入札は、特定の業者に便宜を与えるために行政の公平・公正な手続きをねじ曲げるという安倍政治の“負の遺産”を、岸田首相も受け継いでいることを示している。