教えてくれた井上真奈美 国立がん研究センターがん対策研究所予防研究部部長
井上さん自身も、多忙な日々のなかでがん検診の受診は欠かさない。
「少なくとも胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんは科学的な議論を交わし、総合的な判断のもとで検診が行われています。もちろんかからないのがいちばんですが、そもそも2人に1人ががんになる時代で、自分だけがならないはずはない。だからこそ、予防とともに検診が不可欠であることを知ってください」
がんの罹患者を1人でも減らしたい―井上さんのそんな強い思いは、日本国内だけに留まらない。
「今年の5月から世界保健機関(WHO)の一組織でがん研究を担う国際がん研究機関(IARC)の科学評議会に議長として参加しています。
世界中から研究者が集まるIARCのトップは現在、女性です。以前、女性登用の進む北欧の研究者に『どうしたらトップレベルで働く女性を増やせるか』と尋ねたら、『ただ待っていても永遠に増えない。法律や規則を作って無理やりでも男女比率を1対1にすれば、最初は混乱しても10年ぐらい経ったらそれが普通になる』と言われ、合点がいった。確かに、男女比が偏っているうちは、夜遅くから始まる会議や研修が当たり前にあるなど、子育てや介護をしながら働いている人の生活や問題は可視化されづらい。
医学界だけでなく、政治や経済など、どの世界においても、役職につく女性が増えたら多様な視点が生まれて、男女両者にとって、風通しがいい社会になると思います」
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
井上真奈美(いのうえ・まなみ)さん/神奈川県横浜市出身。筑波大学医学専門学群卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院で疫学・予防医学を学び修士課程を修了。愛知県がんセンター研究所、東京大学大学院医学系研究科などを経て、2021年9月より国立がん研究センターがん対策研究所予防研究部部長に就任。今年5月にはWHO附属機関である国際がん研究機関(IARC)におけるアジア圏および日本人初の科学評議会議長にも選出された。
撮影/田中智久
※女性セブン2022年9月29日・10月6日号