「音」で体が硬直
五感のなかでも、とくに日本人は「音」が文化的に密接していると青柳氏は指摘する。
「日本語は諸外国の言語に比べて『オノマトペ』が豊富だといわれています。トントン、カンカン、ドーンといった擬音語のほか、『蝉がミンミン鳴いている』といった擬声語、『ニコニコ笑う』というような擬態語、『ワクワクする』といった擬情語もある。
こうした動作や状況に応じた音文化を子供の頃から体験しているため、私たちは反射的に音とイメージを結びつけている。つまり、日本人にとって音は記憶を想起させやすいのです。あのJアラートのサイレン音が、戦時下の記憶を呼び起こしてしまうケースは考えられます」
東京大空襲を経験した都内在住の80代男性も、Jアラートの音で体がこわばったと話す。
「いまでもサイレン音が苦手で、Jアラートが鳴った朝は恐怖で全身が硬直してしまいました。脈も乱れてしまってね……。ミサイルの前にJアラートのサイレン音で死んでしまったら、笑い話にもなりません」
10月4日には、Jアラートの対象外だったにもかかわらず、ミサイルが飛来する危険性がない東京都の島嶼部にも誤って発出された。
さらに千代田区の無線システムがJアラートに反応し、サイレン音とともに避難を促すアナウンスが流れるというアクシデントも発生。
仮に北朝鮮が東京に向けて弾道ミサイルを発射すれば、最短4分で着弾する。そのため政府は24時間いつでもJアラートを使用して緊急情報を伝達することになっている。もちろん目的は国民の生命を守ることだが、「生活している人にとっては急に発せられる音であり、それによって不安感や緊張感を抱く人も多い」と青柳氏。危険を知らせるための音が、人の心身にダメージをもたらしているのだから皮肉だ。
そもそもJアラートは、なぜあの音なのか。青柳氏が続ける。
「警報音は危険を感じやすくするように作られており、『不協和音』と『音程を急激に変化させる』といった手法が使われていると言われています。不協和音とは、同時に響く音が協和しない音程関係ですが、この“協和しない”という点が人に不安な感情を抱かせる。加えて音程を急激に変化させることで、受け手によりいっそうの警戒感を抱かせる。危険を感じさせる音の作り方は、緊急地震速報や津波警報なども同じです」