2007年7月、社会保険庁の年金記録漏れ問題で、年金記録確認中央第三者委員会の事務室が開設され、看板の前に立つ菅義偉総務相(左)と梶谷剛委員長(前日本弁護士連合会会長)(時事通信フォト)
「私たちは年金を60歳までしか払わなくて済みましたけど、これからは65歳まで払うのでしょう。ほんと、若い人は大変ですね。60歳からの5年間、毎月1万円以上払うのって頭で考えるより大変ですよ。会社だって世間だって仕事となれば還暦過ぎたら容赦ないです。若者に比べれば年寄りは将来性もないし邪魔ですからね」
それが現実なのだろう。定年制どころか退職金すら廃止する企業も増えた。60歳になって、もしこの年金納付期間65歳延長が決まったら約100万円の大幅な出費となる。そもそも延長が決まらなければ出さなくていい金であり、ましてそれで受給額が上がることもない。むしろ減らされる公算のほうが高い。なぜなら今回の案は年金者が増え、保険料を納める若い世代が減ることが決定している中で、受給水準の低下を食い止め、制度維持を図るためのもの、だからだ。
「いま年金(納付額)高いんでしょう。若い人は大変だなあと思います。それで(給付額を)下げられるかもしれないんじゃ、私らの仕事もさらに競争率上がるのでしょうね。そのころにはさすがに私もあの世ですけど、本当に大変な時代になりますね」
この件とは別だが、国民年金の不足分を厚生年金で埋める案もまた検討されている。もちろんこれで即、サラリーマンにとって恐怖の「国民年金と厚生年金の統合」(もちろん給付は低い方に合わせる)とはならないが、筆者は楽観できない。
「そりゃ信用できないでしょう、私らの世代だって、年金では散々嘘をつかれました」
専門家の中には日本の年金財政も運用も財政検証上は優秀で、運用利回りもプラスであるから大丈夫、という向きもあるが、これまでの改悪に次ぐ改悪で誰が信用できるというのか。それこそ2004年、自公政権下において公明党の坂口力厚生労働大臣が示した「100年安心プラン」(そもそも2003年の総選挙に向けた公明党案)とは何だったのか。言った矢先に2007年にいわゆる「消えた年金問題」では5,000万件(!)の納付記録漏れが明るみに出て、当の社会保険庁は2009年に廃止となった。「100年安心」どころか安心は2年と持たなかった。自公政権下野のきっかけのひとつでもある。
「あなた、100年安心は特権階級の安心ですよ」
実に上手いことを言われてしまったが特権階級、今どきのスラングなら『上級国民』ということか、それはともかく、一般国民はこれから65歳まで5年分余計に約100万円の年金を支払うことになる。
「若いうちから、年取ったらどうやって稼ぐかを考えたほうがいいと思いますよ。身体が健康なのが前提ですし、それこそどうなるかわからない話ですけど。怖いと思うのは「どうせ年取る前に死ぬから」って若者ですね。私も若い時はそうだったから言うのですが、案外と人って死なないものです。それに「死なないけど生きてる」って状態が高齢者ですよ。そんな高齢者が働くって大変なことです。私がそうなんですから」
とてもよいお話を聞けたと思う。